2024年4月26日(金)

ニュースから学ぶ「交渉力」

2022年9月28日

 次に大切なのは、謝罪してほしいとか、友好的な雰囲気で解決したいといった相手への期待をしてはいけない、という点である。人は無意識のうちに相手に対してさまざまな期待をしている。だからこそ、相手が自分の期待や予想を下回るような対応であるとイライラし、それが合意を遠ざけている場合もある。

 本来対立しているのは交渉「相手」とではなく、交渉「事項・内容」であり、この点を明確に分けて認識し相手と対話することが、対立を乗り越える上で大きな鍵となる。交渉学ではこれを「人と問題の分離」として説いている。

 SNSでは簡単に自分の意見を発信できるため、深く考えず反射的に、この人の態度が気に入らないといった思いで書き込んでいる意見も多く見られる。ぜひ投稿する前に一旦立ち止まって、それが相手という「人」の攻撃になっていないか、問題の本質を論ずる内容になっているか、今一度考えていただきたい。

 そして最後3つ目となるコンフリクト・マネジメントのポイントは、「裏口のドアを開けておく」、すなわち、最後まで解決の道をあきらめないことである。

 企業間・個人間のトラブルや家庭内の不和など、その程度が大きくなると最終的には訴訟に発展し、裁判官という第三者に問題を解決してもらうことになる。訴訟は対立が悪化した際の最終手段と言えるが、訴訟社会の米国では、意外にもそのほとんどが和解による解決で終わっていることはご存知だろうか。つまり、代理人はいても、結果として当事者同士で問題解決を図っているのである。

 和解交渉を専門とする法律家も存在し、激しく対立する法廷闘争において、さまざまな方向から解決の道筋を構築するための手段が取られている。このように、難しく思われる交渉でも最後まで粘り強く交渉する姿勢は、当事者双方が納得できる解決の道を開く鍵になる。

SNSでの「対話」の先には明るい未来も

 SNSをはじめとするインターネット上で誰もがたやすく情報発信可能になった現在、利用者は、その強大な拡散力を強く認識し、拡散から生じるさまざまな危険性も踏まえた冷静な行動が求められている。自分が接した情報は正しいのか、自分のコメントは他者を誹謗中傷するような内容になっていないか。改めてこうした基本的なことを意識して利用する必要がある。

 そのうえで、玉石混交なあふれる情報の中から真に価値ある情報を選び取り、世界中の人たちと意見交換できる利点を生かして建設的な対話を行うことができれば、みずからの夢をかなえる大きな推進力を生み出す強力なツールになることは言うまでもない。

主要参考文献
田村次朗『ハーバード×慶應流 交渉学入門』(中央公論新社、2014年)
土屋大洋「コメンタリー サイバーグレートゲームと二つのハートランド」JFIR日本国際フォーラムの研究会「ユーラシア・ダイナミズムと日本外交」(2021年)
 
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