2024年11月21日(木)

田部康喜のTV読本

2013年6月26日

事件の真相解明を、いたずらに急がない

 高村薫はいう。

 「どうして同じ日本人の女性である彼女が、このような犯罪を犯したのか」

 「わたしたちの社会がこうした犯罪を内包しながら回っていることを知る必要がある」

 取材班と高村は、角田・元被告が自殺する前に、おなじ留置場の部屋にいた女性の証言に行きつく。「おかしい、おかしい」と元被告が最後にいっていたというのである。

 この女性は証言する。

 「彼女は留置場で最初は、家族の自慢をしていました。事件後、その家族が疑似家族であることを知りました。彼女が自殺したのは、疑似家族が犯罪を証言して、裏切られたと感じたのではないでしょうか。それで『おかしい、おかしい』というようになったと思います」

 今回のfile.03は、事件の真相を解明することを、いたずらに急がない。角田・元被告がスナックを経営していた場所や、新たに事実を掘り起こしたふたつの家族が住んでいた部屋などを、高村が訪れる。語り部のような高村の存在が、番組の通奏低音となって、日本社会のありようについて、視聴者がおのずと考えさせられる。

 調査報道の王道である、足を使った取材陣に敬意を払うと同時に、在阪の作家・高村が番組の制作に加わっていることの重みを思う。
 

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