「以前は訪問先でやっていた時期もあったんですが、どうしてもあの場にそぐわない気もしますし、不安定な中で操作をするとPCにかかり切りになってしまうので、あえて紙に切り替えて、あとでボイスレコーダーに録音することにしてコミュニケーションに集中するようにしています」。
省ける時間は省き、その分人に向きあう時間を増やし、さらにスムーズな情報連携でチーム力も高めるというICTの“いいとこ取り”をした実践である。
最期まで家で過ごしたい人のために
家で最期を迎えたい人のサポートも在宅医療チームの重要な役割だ。桜新町アーバンクリニックでも現在月に5~7件ほどの在宅看取りをしている。
末期と思われる人が在宅を希望し、退院してきた場合の初診の顔合わせの時には、家族に必ず確認している事項がある。「お家で看取るお気持ちはありますか?」ということだ。
それはあくまでも初診時点での気持ちであり、後で変わることもあり得る。しかし、たとえ後で変わろうとも、その時の意向を確認しないと、チームとしての方針が定まらないままになってしまう危険性がある。在宅医療においては療養者本人と家族、支える専門職や関わる地域の人までを含めた皆が広い意味でのチームの一員となる。在宅での最期にも多くの人が関わるからなおさら、意思統一をしておくことが大切なのだ。
チームの中でも、在宅で病気や障害とともに生きる人を身近で見守ることの多い家族。療養者本人はもちろん、その家族の気持ちを大切にする想いは、数年前の遠矢さん自身の経験でさらに強まった。母親を家で看取ったのだ。
「がんの末期でしたけれど、母もあまり病院が好きな方ではなかったし『あんたが看取ってくれたらいい』と言ってくれたので……。家族の立場と主治医の立場を兼ねるのはとてもつらい局面もありましたけれど、その経験があるから、家族の気持ちを実感を持って感じられるところがあります。『こういう時は迷うもんだよな、分からなくて当然だよな』という感覚は、今訪問診療をする中ですごく大きいですね」。
現在、遠矢さんが課題と感じているのは、病状が悪化してしまい、ギリギリの状態で紹介をされてくる人が多いことだ。「もっと早くから在宅医療につながっていれば、本人もご家族も、もう少し落ち着いて過ごせたのにと感じることが多い」と言う。