毎週土曜日の午後、新宿区内のある病院の小児病棟に、オレンジ色のお揃いのエプロンをつけた「遊び」のボランティアがやってくる。待ちわびた子どもたちが、病室からチラチラと様子をうかがったり、廊下に出てきて「うわーぁ、きたー!」とはしゃいだり、病棟の空気が一変する。
入院していても、やっぱり子どもたちは遊ぶのが大好きなのだ。
病気だって遊びたい!
入院中って、静かに寝てなくちゃいけないのでは? そんな声も聞こえそうだ。でも思い出してみてほしい。子どもの頃、風邪で学校を休んだ日、少し良くなると横になっているのが苦痛ではなかっただろうか? ましてや長期入院ともなると、子どものストレスは相当なものになると想像できるだろう。
NPO法人「病気の子どもネット 遊びのボランティア」理事長で保育士の坂上和子さんは言う。
「本来子どもって、歩き始める前の子以外は、歩いて走り回ってエネルギッシュでしょ。病院に入ったからってそれは変わらない。でも治療のために布団一枚の空間で、ベッドの柵が上げられてしまって、時には点滴がついてしまっているから動ける範囲が限られてしまう。一日いるだけでも苦痛でしょう」
「ものすごく苦しい状況だったらそれどころじゃないでしょうけれど、少しでも調子良くなれば、『座りたい』、『靴はいてお外に行きたい』って、絶対子どもは言うわよ」
小児病棟の実態に驚いた
1989年、坂上さんは新宿区の訪問保育士として、区内の高度医療を行う病院を廻っていた。そこで見たのは、長らく関わってきた保育の常識からはかけ離れた世界だった。
「声をからして泣いて訴えたって、医療処置以外では誰も来てくれる余裕がないんです。だいたい子どもが泣いているのって、ここから出してくれっていうことなのね。泣いていない子は苦しいからそれどころじゃないだけで、小児病棟って本当によく泣き声が聞こえてたんです。ストレスだらけだから、せめてプレイルームに出しておもちゃを与えたり刺激をあげないといけない。それが普通ですよ。なのにベッドの柵の中から出られないという状態。看護師さんたちも遊んであげたくてもできないというジレンマがあったと思うけれど、長い間保育の畑を歩いてきた私にとって、その状況はものすごいショックでした」
坂上さんと同僚が、プレイルームに楽器や人形劇など、子どもの年齢に応じたおもちゃを運び込むと、病室から子どもたちが「まるで砂糖にアリが寄ってくるみたいに」集まってきた。遊びに飢えていたのだ。