2024年11月22日(金)

21世紀の安全保障論

2023年2月14日

 一方の米英独の政府としては、供与した戦車がウクライナの勝利に貢献することは自国民に対して戦車供与の正当性・妥当性をアピールする上で重要だ。特に、レオパルド2戦車の供与に反対する世論を押し切ったドイツ政府にとっては、同戦車の活躍は是が非でも必要だろう。

 しかし、激しい戦闘の中で米英独の戦車が全て生き残るとは考えにくい。もし、国の誇りでもある花形戦車、またはその残骸が赤の広場で展示されて晒しものになれば、米英独国民の怒りの矛先は、自国の政府に向けられるだろう。

 特にドイツでは、ウクライナへの軍事支援に反対する世論が強まる可能性がある。これはロシアにとっては情報戦上の大きな勝利であり、米英独にとっては大きな懸念だ。

技術情報流出への懸念も

 また、米英独の高性能の戦車が捕獲された場合、ロシア軍はこれを徹底的に研究して技術情報を獲得し、自らの能力を向上させることになる。そして、その情報は中国にも伝えられ、中国軍の能力向上にもつながるだろう。これは、米英独のみならずロシアや中国の軍事的な脅威に直面する国々にとって由々しき事だ。

 米英独が、こうした情報戦上の懸念を現実化させない手段は、ウクライナ軍に供与した戦車を第一線で使用しないように要請することだが、それは出来ない相談だ。したがって、万が一戦車が戦場で捕獲されても、重要な技術情報がロシア側に渡らないような措置(スペックダウン、破壊装置の取付など)が必要になるだろう。

 米英独としては、戦車の供与を巡る戦車の戦力発揮上および情報戦上の懸念が現実化しないよう、そして万が一現実化してもダメージを最小限に止められるよう、必要な手立てを講じておくべきだ。

 
 『Wedge』2022年6月号で「プーチンによる戦争に世界は決して屈しない」を特集しております。
 ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
 特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。
Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る