2024年12月22日(日)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2023年2月16日

過激化していく軍人たち そして満州事変へ

 「大正デモクラシー」を支えた国内外の条件が徐々に行き詰るなか、陸軍内では中堅・若手将校を中心として陸軍や国家の抜本的改革を目指す「陸軍革新運動」が蠢動を始める。陸軍革新運動に関しては筒井氏や刈田徹氏(元拓殖大学教授)を始めとした先行研究の蓄積があり、その概要はかなり解明されている。

 運動のそもそもの発端は早く、1910年代頃から陸軍士官学校16期生の永田鉄山・小畑敏四郎・岡村寧次などが参集し、長州閥に牛耳られた陸軍人事の刷新や、近代化・総力戦準備などを話し合い始めた。この頃はまだ一般政治への干渉や国際体制への挑戦のようなことは真剣には考えられていなかった。

 その後、永田らは1925年頃に「二葉会」という会合を発会することになる。この時期には蔣介石の北伐の影響もあって大陸情勢は緊迫の度を高めていた。二葉会の会合でも満州問題が話し合われるようになる。

 1927年、永田の影響下で二葉会の会員より若い世代が中心となり「木曜会」が結成される。木曜会でも満州問題が話し合われ、第5回会合(1928年3月)では、満州を武力によって掌握することが決議された。また国策やその実行問題についても話し合われるようになる。

 1929年、両会は合併して「一夕会」となる。一夕会でも人事刷新と満州問題解決は最大の関心事であった。一夕会は陸軍人事に強い影響力を持つ陸軍省人事局に会員の岡村寧次・加藤守雄を送り込み、陸軍中央の枢要ポストを一夕会員で順次掌握する。また満州の権益警備を任務とする関東軍に会員の板垣征四郎・石原莞爾を送り込んだ。

 この時期の陸軍内では同種の会合が林立するが、一夕会と並んで著名な会合として「桜会」(1930年結成)がある。同会はもともと陸軍派遣学生(東大経済学部)の池田純久が国家改造政策を検討するために開いていた会合を母体とする。1930年に急進派の橋本欣五郎が参加して桜会として正式発足すると、極めて先鋭な行動主義の傾向を持つようになる。橋本はトルコ革命の英雄ムスタファ・ケマル・アタテュルクに心酔し、必要とあらば武力の行使も辞さなかった。

 その結成趣意書は「高級為政者の冒涜〔悖徳〕行為、政党の腐敗、大衆に無理解なる資本家、華族、国家の将来を思わず国民思想の頽廃を誘導する言論機関、農村の荒廃、失業、不景気」を激しく糾弾した。それは天皇に対する忠誠を別にすれば、ほとんど左翼政党の革命宣言であった。

 このように陸軍革新運動は初期には比較的穏健な改革運動として始まったが、国内外の政治的行き詰まりと連動して、満州問題や一般政治にまで関心の幅を広げ、急進性を高めていったことが分かる。

 ともあれ薪炭は積み上げられた。あとは誰が種火を投ずるかである。1931年9月18日、関東軍参謀の板垣征四郎と石原莞爾らは奉天郊外柳条湖の鉄道を爆破すると、これを中国軍の仕業だとして軍事行動を開始した。満州事変である。

参考文献

飯塚浩二『日本の軍隊』(岩波書店)
刈田徹『昭和初期政治・外交史研究』(人間の科学社)
佐藤誠三郎『「死の跳躍」を超えて』(都市出版)
黒沢文貴『大戦間期の日本陸軍』(みすず書房)
高嶋航『軍隊とスポーツの近代』(青弓社)
筒井清忠『昭和期日本の構造』(講談社)
筒井清忠『昭和戦前期の政党政治』(筑摩書房)
筒井清忠『昭和史講義2』(筑摩書房)
東幼史編集委員会編『わが武寮』(東幼会)
中村隆英『日本経済』第3版(東京大学出版会)
松村秀逸『三宅坂』(東光書房)
満井佐吉『春を生む時』(修文社)
武藤章『軍務局長武藤章回想録』(芙蓉書房)
山本七平『昭和東京ものがたり』1・2(日本経済新聞出版社)

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