2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年3月3日

 次に、不動産業へ過度に依存した成長によってもたらされた問題がある。中国経済における不動産・同関連産業(建設業、建材工業、不動産販売業、関連サービス業)のプレゼンスについてはさまざまな研究があるが、米国研究機関(National Bureau of Economic Research)の20年の研究報告によれば、そのGDPに占める比率は16年時点で28.7%に達したとされ、同時期の米国の約17%に比してかなり高い。それだけに不動産投資の経済波及効果は大きくなるが、問題も多い。

 問題の第1は不動産バブルである。中国では長期にわたって同分野への大規模な投資が続けられて来たため、不動産価格が実需を大きく超えた水準となっている。

 たとえば住宅の平均価格は北京、上海などでは年収の25倍超に達している。通常返済可能とされるのは年収の6倍前後までとされ、明らかにバブル状態である。

 第2は、地方財政の不動産依存度が高すぎることである。地方政府が土地使用権をデベロッパーなどに譲渡した収入が財政に占める比率は、1位の浙江省が55.5%であるのを筆頭に13の省で40%超となっている。同収入がインフラ建設やプロジェクトに投資されることで地方経済の発展が牽引されれば好循環となるが、それがまた不動産に投資され、ますます不動産依存度が高まるという悪循環も起きている。

 第3は、金融への悪影響である。商業銀行の貸出残高の30%が不動産向けと言われており、上記したバブルがはじければ、その影響は金融システム全体に及びかねない。これは、専門家がいうところの「灰色のサイ」(高い確率で深刻な問題を引き起こすと考えられるにもかかわらず、普段は軽視されがちなリスク)である。

「3つの下押し要因」が意味するもの

 上記したような成長構造の問題・課題の中で今後を左右するのは「3つの(景気)下押し要因」である。この用語は21年12月の経済工作会議以降注目されているもので、①需要の収縮、②供給不安、③期待の弱体化、を指す。

 ①は、コロナ禍による消費の収縮、それに連動した投資の収縮、②は、コロナ禍によるエネルギー資源、小麦などの食糧の供給、米中摩擦などによる半導体供給の不安定化と価格高騰、③は、これら要因による企業や消費者などの将来期待の弱体化、を内容としている。

 年度計画を決定する同会議の性質上、短期的な説明要因として用いられているが、実はこれらの要因は中長期的にも存在している。第3期目をスタートし、さらなる長期政権を目指す習近平政権には、短期的課題と中長期的課題に同時に取り組むことが求められるはずである。

 たとえば①には、人口構造が関わっている。労働力供給という意味では、生産労働力(15~64歳)人口比率は2010年がピークだったとみられ、22年の同人口は9.8億人で25年にはほぼ同数であるものの、30年9.7億人、35年9.3億人に減少するとみられる(国連世界人口推計2022による)。10年余で5000万人の減少である。

 しかも、全人口の老齢化は加速していく。22年の65歳以上人口比率は14.9%と国連基準の「高齢社会」となっているが、さらに85万人の人口減少が記録された。こうした人口構造の大転換を政策的に変えていくことは難しく、今後、需要の拡大は望みにくい。

 また②については、ウクライナ戦争という大きなマイナス要因が加わり、米中摩擦も激化している現実がある。このうち後者については、サプライチェーンのデカップリングが進行しており、中国にとっての供給不安は継続しそうである。


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