パヴェルは、前任のチェコ大統領ゼマンに比べ、はるかに強く西側民主主義国家間の連携を進めようとしているようだ。パヴェルによれば、台湾は中国の言う「一つの中国の原則」ではなく、「二つのシステムの原則」に基づき中台関係を処理すればよい、ということになる。予想通り、蔡・パヴェルの電話会談に対し中国は「一つの中国の原則」に違反するとして強硬に抗議した。
来年に迫る台湾総統選の行方
このようなEUの動きに対し、台湾の人々はどのように反応し、それが来年初めの台湾総統選挙にどう反映されるのだろうか。中国で新しく台湾事務弁公室(中国政府で台湾政策を担当)の主任に就任した宋涛は、台湾最大野党・国民党の夏立言・副主席を招き、近く中国国内で会談すると伝えられている。
中国としては、蔡英文・民進党政権とは、事実上、対話が途絶えているので、代わりに、中国共産党に対しやや宥和的立場をとる国民党の副主席を招致し、「一つの中国の原則」に基づき、台湾問題を話し合おうということなのであろう。
民進党側では、統一地方選挙に敗北したことを受け、蘇貞昌・行政院長(事実上の首相)が辞任し、後任に陳建仁・元副総統を選出した。新たな総統候補には、頼清徳・副総統が選ばれ、来年の総統選挙に向けた民進党の新しい布陣が決定した。やがて国民党側からも総統候補が選ばれるであろう。今から1年間、民進党、国民党ともにいかに支持者を集めることができるか、台湾の今後の行方を大きく左右する総統選挙が展開されることとなる。
なお、最近のチェコと台湾との関係において、見落とせない一つの事実を付言しておきたい。2020年8月末から9月にかけて、チェコのビストルチル上院議長率いる政治家、財界人ら約90名かが台湾を訪問した際、立法院での演説においてビストルチルは「私は台湾人である」と発言した(これは、1963年のケネディ大統領のベルリンでの演説に倣った表現である)。
台湾と外交関係のない国の議長が立法院で演説したのは初めてのことであったし、その中で「私は台湾人である」との発言を行ったことは、特筆すべきことであったと言わざるを得ない。