2024年11月22日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年3月6日

企業、政治、学会に残る「日本型人事」

 まず、今回の日本銀行の場合は、やや例外に属するだろう。トップである総裁に求められるのは、経営トップとしての統率力、判断力だけでなく、金融政策のプロ、そして世論や国際的な金融市場に対して正確なメッセージを発信するコミュニケーション力など、経営者と専門職の両面のスキルが高度に要求されるポジションと言えるからだ。

 考えてみれば、民間企業の経営者も、また官庁のトップなども同様に管理能力と専門家としてのスキルの両面が求められるはずだ。だが、日本の多くの組織では、年功序列のシステムの中でひたすらに組織内の秘められた権力闘争に勝利した「ご褒美」としてポジションが与えられる。

 したがって、若いうちから長時間労働や一方的な転勤命令に耐えて「奉公と犠牲」を払っていた人間だけが、経営トップの候補となる。一流の知性を招いて組織の革新的なリーダーにするなどということは、こうした日本型組織では最初から想定されていないのだ。

 政治家が就任する大臣のポストの場合も、当選回数という一種の年功序列の結果として与えられる仕組みがある。派閥の領袖としては、どんなに資質に疑問があってもベテラン議員を大臣に押し込めないと、総理候補にはなれない。総理にしても、よほど強い党内権力を確保していなければ、閣僚人事において、そのような不適格候補を拒否する自由はなかったりする。

 一方で、日本型人事に縛られているのは学界も同じだ。大学教授が企業の取締役を兼務するとか、大臣など行政組織でフルタイムで活躍するような場合は、教授の職を辞して行かねばならない。

〝米国流〟政権を担える頭脳の育成と活用

 政治的風土の問題もある。例えば、米国の場合に政官界と学界の垣根が低い理由として、政治任用制度がある。各中央官庁には、閣僚レベル、次官級レベルなどをトップとした上級管理職がおり、それぞれの分野のプロフェッショナルである。こうした上級の官僚は基本的に支持政党を明確にしており、政権交代があると一斉に入れ替わる。例えば、共和党のブッシュ政権から民主党のオバマ政権へと政権交代があった2009年の1月には、共和党系の高級官僚は一斉に退任して、民主党系の人材に入れ替わった。

 そこで「浪人」となった高級官僚はどうするのかというと、ちゃんと受け皿がある。それは大学とシンクタンクであり、例えば外交官など国務省の高級官僚であれば、大学で国際政治を研究し教えるのだ。

 1970年代に米国の外交を担ったヘンリー・キッシンジャー氏はハーバードの教授からの転身であるし、2000年代に同じく共和党政権の外交を担ったコンデリーサ・ライス氏はスタンフォードの教授から転じて大統領補佐官となり、退任後は同学に再び戻っている。こうしたケースは例外ではなく、むしろ普通である。


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