2024年4月26日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年3月6日

 つまり、米国の場合は、このように「政権担当能力のある高級官僚候補の人材」を国家として民主党と共和党の2セット持っていることになる。残念ながら、日本の場合はそうではない。というのは、いくら二大政党制を志向していても、野党系の専門人材が見当たらないからだ。

 例えば、第二次安倍晋三政権の時期には、野党系の大学教授たちは「アホノミクス」などといって、政権の経済財政政策を批判していた。だが、仮に野党が政権を取った場合に、こうした学者たちが統治の一端を担うスキルがあるのかというと、残念ながら程遠い現状がある。

 旧民主党では、自分たちはカネがないのでシンクタンクを持てない、従って政策の代替案が持てないなどという愚痴をこぼす議員がいたが、予算の問題ではない。そもそも現実を直視して「実務的な統治能力」を備えつつ高度な研究を続ける姿勢が野党系の学者には欠落している。裏返して考えると、日本の大学では「いつでも行政や企業の舵取りができる」ような人物から最先端の知識を教えてもらうという機会は非常に限られているとも言える。

オールジャパンで最適人材の配置を

 勿論、近年は日本でも大学に籍を置きながら、国際機関で活躍したり、限りなく実務に近い仕事で国家や国際社会に貢献するような人物も出てきている。以前よりは、そうした人材が評価されるようにもなっては来ている。だが、まだまだ少数派にとどまっているのが現状だ。

 その一方で、バブル崩壊以来の「失われた30年」において、狭く閉鎖的な組織内で選ばれてきた「サラリーマン経営者」たちが、保守的かつ防衛的な経営判断を繰り返して、国家の衰退を招いた歴史は、まだまだ断ち切れていない。

 そう考えると、今回の植田氏の人事が「史上初」などと言われるのは、何とも残念と言わざるを得ない。日銀だけではなく、企業、官庁、大学の全てにわたって日本の停滞を招いている年功序列、終身雇用を見直してゆかねばならない。

 適材適所とは、その組織の中で最善の配置をすることではない。政界、官界、財界、学界の全てにわたって、オールジャパンから最適の人材にポストを回していかねば、現在の衰退スピードが加速するだけだ。

   
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