2024年12月14日(土)

経済の常識 VS 政策の非常識

2023年3月15日

 前回の本欄(「ウクライナ〝勝利〟の近道は汚職対策にある」)では、民主主義国は豊かであり、なぜ豊かになるのかということを説明したが、これに対して、さまざまな「民主主義はうまくできない論」がある。

(Martin Barraud/gettyimages)

 例えば、歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は「今回のコロナ禍のような危機をうまくコントロールする構えができているのは、全体主義システムの方だと確認された」と述べている(エマニュエル・トッド『パンデミック以後』46頁、朝日新書、2021年)。しかし、このような言説は、23年初からの中国の爆発的な新型コロナウイルス感染の拡大で、信用されなくなったと筆者は思う。

 なお、弘前大学の安中進助教は、2年前に、権威主義国家はコロナ感染者数を隠すことができるので、情報の透明性を考慮すると、権威主義国家がコロナ感染症に対し、うまく対処しているとは言えないと指摘している(安中進「民主主義は権威主義に劣るのか? コロナ下の政治体制を分析する」『中央公論』2021年9月号)。

 また、前回は、民主主義国は豊かであり、豊かになる理由があると説明したが、これに対して、経済成長率に焦点を当てた議論がある。つまり、豊かな国はもう良いが、豊かでない国はむしろ民主主義が邪魔になるというものだ。

 これは開発独裁論として古くから議論されてきたことだ。開発独裁とは、経済発展のためには民主主義の政府より、独裁的な政権が有効であるという議論である。最近では、イェール大学の成田悠輔助教授と須藤亜佑美氏は、2000年までは民主主義は経済成長のためにも機能してきたかもしれないが、2000年以降においてはそうではない、民主主義は、GDPの成長に負の影響を与えたと主張している(Yusuke Narita, Ayumi Sudo, ”The Curse of Democracy: Evidence from the 21st Century,” Yale University, Discussion Paper 8-3-2021)。

民主主義と腐敗は経済成長と関係がない?

 本当にそうだろうか。簡単な分析をしてみよう。まず、民主主義と腐敗(なぜ腐敗を考えるかについては後述)と経済成果の指標を決める必要がある。

 民主主義の指標についてはエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が作成している指数、腐敗についてはトランスペアレンシー・インターナショナルが作成している腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)を用いる。どちらも前回用いたものであるので、指標の説明は省略する。数が大きいほど民主主義の度合いが高く、腐敗が少ないことを示す。

 経済成長率は国際通貨基金(IMF)のWEO Databaseの1人当たり実質購買力平価国内総生産(GDP)の2000年から22年までの年平均成長率(%)である(国によってはデータがなく数年ずれることがある)。


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