誤嚥性肺炎への誤解?
高齢者が肺炎で亡くなるという話は、そう珍しいことではない。インフルエンザが猛威を振るっていた時期や特に新型コロナウイルスが流行してからは、よく耳にした高齢者の死因である。
しかし、表1をもう一度見ると、第5位の「肺炎」と第6位の「誤嚥性肺炎」は区別して示されている。すなわち、誤嚥性肺炎とはわれわれがイメージしているような「風邪やインフルエンザをこじらせて……」というような肺炎とは異なるようである。
筆者自身、誤嚥性肺炎という言葉を聞いたことはあっても、その内容について詳しく知る機会はなかった。「誤嚥性」という言葉から、高齢者がものを間違って飲み込むというイメージを強く持っている読者もいるかもしれない。「誤嚥」であるから、たまに報道される「正月に高齢者が餅をのどに詰まらせて、食べ物をうまく飲み込めなかった」といった事故が多いのではないかと思っていたが、それが必ずしも正しい理解ではない。
それを強く感じたのが、最近の有名人の死因としての誤嚥性肺炎である。さる1月11日に日本のミュージックシーンをリードし、偉大な功績を残したミュージシャンの高橋幸宏さんが70歳で亡くなった。患っていた脳腫瘍により併発した誤嚥性肺炎で亡くなったと報じられている。
昨年3月には映画「ゴジラ」をはじめとして大活躍した往年の名優、宝田明さんが87歳で誤嚥性肺炎により亡くなっている。さらにその前の2020年には名バイプレーヤーとして人気を博した俳優の志賀廣太郎さんが脳梗塞後に入所していた介護施設でこれも誤嚥性肺炎で亡くなっている。独り暮らしの高齢者と違って、なぜこれらの比較的手厚くケアされているであろうと推定される有名人が「誤嚥性」の肺炎で亡くなったのであろうか。
誤嚥性肺炎とは何か、その原因
厚生労働省によれば誤嚥性肺炎とは、「本来気管に入ってはいけない物が気管に入り(誤嚥)、そのために生じた肺炎」とされている。その意味では、食べ物をのどに詰まらせたり、うまく飲み込めなかったりすることが原因の誤嚥性肺炎は十分ありうることになる。しかし、誤嚥性肺炎のある意味恐ろしいところは、その後の説明である。
「老化や脳血管障害の後遺症などによって、飲み込む機能(嚥下機能)や咳をする力が弱くなると、口腔内の細菌、食べかす、逆流した胃液などが誤って気管に入りやすくなります。その結果、発症するのが誤嚥性肺炎です。
なかでも寝ている間に少量の唾液や胃液などが気管に迷入して起こる不顕性の誤嚥は、本人も自覚がないため、繰り返し発症することが多いのです。体力の弱っている高齢者では命にかかわるケースも少なくない病気です。」
これを読むと、何も「食べ物をのどに詰まらせる」というような明確なアクシデントによらず、「単に寝ている間に唾液が気管に入り込んでしまうことで発生する肺炎」として誤嚥性肺炎があることがわかる。これでは、本人も周りで介護をする人も気づかぬうちに発症するというリスクがあることになる。高齢になり口の奥にある気管と食道の切り替え機能が十分ではない高齢者は忍び寄る肺炎としての警戒が必要である。
誤嚥性肺炎は気管に入り込んだ細菌によって発症する肺炎であるので、これを防ぐためには「誤嚥」そのものを防ぐか、「細菌」そのものを遠ざける工夫をするかのいずれかとなる。このうち「誤嚥」について、再び厚生労働省によれば、「誤嚥そのものは完治することが難しいため、口腔ケアによって細菌や食べかすを減らし、口腔の清潔を保つことが安全かつ効果的な予防法です」とある。さらに死因のベストスリーで見た通り、「老衰」の影響を考えれば、誤嚥を防ぐ力が弱った高齢者は多いと考えられる。