歯科研究の分野では、この20本を境として「歯の残存本数が少ない高齢者ほど認知症のリスクが高い」という調査研究の結果さまざまに指摘されてきた。さらに21年東北大学歯学研究科の研究グループは、3万5744人に対する6年間の追跡調査の結果から、「歯の喪失と認知症発症との間には有意な関連が見られました。この関連は女性では野菜や果物の摂取などの栄養状態、男性では人との交流人数といった社会的な要因で主に説明をしていました」とする研究結果を公表している。
口(歯)の健康を保つということは、誤嚥性肺炎などの疾病予防を通じて寿命に貢献するだけではなく、食事や社会との交流といった老後生活のウエルフェアにも大きく関わっているということである。
口腔衛生に注目した高齢社会政策
高齢者の口腔衛生のレベルを高めるということは、寿命や認知症介護のリスクを軽減する効果が期待される。ところが「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき市町村が実施する特定健康診断の検査項目には「歯科」の項目は入っていない。
高齢者の口のトラブル防止は、高齢者自身のウエルフェアを高めるだけでなく、超高齢社会で激増が見込まれる医療費支出や介護負担など、社会的な費用の軽減にもつながる。したがって、口腔衛生の推進を社会的テーマとして取り組むことが必要ではないだろうか。
また、個人の側でも単に「生き残るため」だけではなく「生き残った後の生活を豊かに送るため」にも口の健康を保つことは禍を避けるために重要なことである。歯のトラブルに心当たりのある方は、6月4日(虫歯予防デー)を待たずに、いますぐ歯の健康チェックに行きましょう。