名采配の背後にある言葉の数々
今年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で見事優勝を飾った栗山英樹監督の『栗山ノート』(光文社)が売れている。
新刊ではなく2019年秋の発売であるにも関わらず、侍ジャパンをWBC優勝に導いた栗山監督の発想法や思考法を学びたいというニーズの高まりもあって、版を重ねている。もともとは栗山監督が出会ってノートに記し、さまざまな学びを得てきた言葉の数々である。
名采配の背後にどんな考えや決断があり、それを支えた言葉は何だったのかを多くの人が知りたいということなのだろう。確かに栗山監督の頭の中を見てみたいという気持ちは大いに理解できる。
本書では多くの言葉が紹介されるが、その中でも『人間は短い言葉が大事だ。人間は短い言葉によって感奮興起していく』が印象深い。これは易学者で哲学者でもある安岡正篤氏の言葉であるが、まさにWBCで栗山監督が体現した選手起用そのものである。
決勝進出がかかる重要な試合だった準決勝のメキシコ戦。9回裏の最大の勝負どころで、栗山監督は「ムネ、お前に任せた。思い切って行ってこい」とコーチを通じて伝えたところ、それまで不振が続いていた村上宗隆選手が奮起し、劇的なサヨナラヒットを放ったのは記憶に新しい。この一打で村上選手は本来の調子を取り戻し、決勝でも本塁打を放つ大活躍を見せた。
自ら大切にしてきた言葉を実際の采配に生かし、チームを優勝に導いた栗山監督の「勝負ワード」が詰まっている本書は、ビジネスパーソンを含む多くの分野の人々の参考になるだろう。光文社によると累計で10万部を達成しており、本書への世の中の注目度がわかる。生き方の発想をリセットできる一冊である。
読めば連休後の仕事が変わる
3冊目は『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』(高松智史著、ソシム)である。
この春に社会人になった方々向けに特にお薦めしたい本でもある。本書は新人コンサルタントが3年間で学ぶべき104の項目を記した本であるが、コンサルに限らず、多くの業種で共通する内容が含まれている。
コンサルタントはどんな発想でモノを考え、アイデアをまとめていくのか。その源泉となる発想法を解説している。
本書の内容は、優秀なビジネスパーソンに求められるスキルの数々である。コミュニケーションでは、まず論点(質問)にしっかり答えることが鉄則であるということや、数よりも「カテゴリー」で構造を話すことの大切さなどである。
例えば、趣味について話す時に「大きく3つある」というよりは、「趣味はアウトドア、インドア、それぞれあります」と言ったほうが、聞き手に想像させることができて効果的という具合である。
このほか上級編では、待ち合わせにあたって、時間がある場合には小学生の頃から言われてきたような「5分前」行動ではなく、「1時間前」にして余裕を持って仕事モードに入ると生産性が高まり、相手の時間も大切にすることができると著者は指摘する。さらにビジネスで大事なことは「ロジと目次」であり、さまざまなロジスティク(段取り)に加えて、目次は論点(課題)を分解した問いを意味する。この目次をどうするかがコンサルの世界ではマネージャーの腕の見せ所だと著者は記す。
本書は新社会人がビジネススキルを習得するために大いに参考になるとともに、従来型発想にとらわれていたベテラン社会人が固定観念をリセットし、新しい発想で仕事に取り組むためのヒントが詰まっている。連休明けの仕事を円滑に進めるためにお薦めしたい力作である。