雑誌『Wedge』2023年2月号では、「日本社会にあえて問う「とんがってる」って悪いこと?」という特集が組まれていた。そこで今回、このテーマに沿って、筆者の専門であるリーダーシップや交渉学的観点から論じてみたいと思う。
反対意見をどう受け入れるか
「とんがった人材」と聞いてどのようなイメージを持つだろうか。「組織の多数とは異なる意見を持つ人」、「会議で反対意見が多い人」、あるいは、具体的な知人が頭に浮かぶ読者もいるかもしれない。いずれにせよ、肯定的なイメージで捉えた人は少ないのではないだろうか。
このように、ともすれば周りから違和感を持たれる「とんがった」人も、近年、ダイバーシティ(多様性)の重要性が謳われるように、組織にとっては必要な人材であることを改めてここで考えてみたい。
多くの日本の組織は、「和の精神」で動いている。すなわち、「対立」ではなく「協調」を重んじる組織、と言い換えることができる。このためコミュニケーションにおいては、場を和ませることを重視した「会話」に終始し、相対する事柄を乗り越えるために話し合う「対話」に踏み込めないケースが多く見られる。
例えば、会議の前に、「昨日は寒かったですが、今日は暖かくて春のようですね」「そうですね。この暖かさが続くと嬉しいですね」というような「会話」をよく耳にする。これから議論や交渉に臨む相手側と、「会話」を交わして場を温めることは有意義な行いと言える。
しかし、温和な雰囲気を重視するあまり、いざ本題に入っても「対話」ができず、反対意見を言うことがはばかられる話し合いに陥ってしまう、という問題を抱えている。
「このようなX案を提案したいと思います」というAさんの発言に対して、たとえ疑問があっても、Aさんを傷つけたり、その場の雰囲気を壊してはいけないという思いから「さすがですね、X案がいいと思います」と誰も反対意見を言わない、といった場面に多くの方が遭遇したことがあるのではないだろうか。内心疑問に感じていても、対立を恐れ、「そうですね」と互いに肯定するだけでは、プロジェクトは正しい方向に進まず、新しい風も吹かない。
このとき、場を乱す発言と捉えられる可能性も厭わずに、「X案は〇〇の点で問題があるので、Y案の方がいいと思います」と問題を指摘できる人材こそ「とんがった人」なのである。このような反対意見を、腫物を触るような思いで捉えずに、自分と異なる観点を提供してくれたとむしろ尊重し、互いを理解しようという姿勢をもって話し合える組織こそが、イノベーションを生み出す力を持つことができる。