2024年11月22日(金)

ニュースから学ぶ「交渉力」

2023年2月23日

 ある意見に対して批判的な意見を出させて、その意見の正当性を証明したり、逆に、不当性を明らかにしたりするのである。これにより、意思決定の誤りを小さくすることができると言われている。

 ここでは詳述できないが、「悪魔の弁護人」をうまく用いたのがキューバ危機と言われる。当初、空爆賛成派が多数を占めていた中で、ジョン・F・ケネディ大統領の弟であるロバート・ケネディがその役割を演じ、最終的に海上封鎖という平和的手段を用いる意思決定へと導き、見事に危機を回避したというエピソードである。

 こういった史実も示すように、反対意見は時として厄介にも思えるが、より良い意思決定には欠かせない大切な要素であると筆者は考えている。

とんがった意見を丸く言う方法

 ここまでで、とんがっていることの良さをご理解いただけたと思うが、次に筆者は、とんがった意見を丸く言う方法を提案したい。その場の支配的な意見に対して異なる意見を発するには大きな勇気が必要で、できれば避けて通りたいと思う気持ちは当然だ。そこで大切なのは、話し方である。

 対立する内容を話し合う「対話」においては、「価値理解」と「アサーティブネス」が極めて重要なポイントになる。詳細は「迫る参院選 どんな言葉の力を持つ人を選ぶべきか」を参照いただきたいが、攻撃されているという認識を相手に与えずに合意形成を行うことが理想的だ。

 「会話」的な雰囲気を残しつつ、中身は「対話」を目指す、ということである。相反するように感じるかもしれないが、言い方、話し方を工夫すれば実現は可能になる。

 具体的には、反対したいと感じる意見に対して、いきなり自分の考えを切り出すのではなく、まずは相手の考えを正しく理解するために質問を重ねて「傾聴」する。「X案ではなく、Y案にすべきです」と言ってしまえば、X案を推している側は、反対されて不満に感じるだろう。

 そこで最初は、「X案の〇〇のところが理解が追いつかなかったので、もう少し詳しく聞かせてください」と質問を投げかけ、相手の考えをより深く聞く。やりとりを繰り返すうちに、相手自身がX案の誤りに気づく場合もあるかもしれない。逆に、あなた自身がX案の良さに気づくこともあるかもしれない。

 それでもやはり互いの考えが相いれない場合は、「例えば、Y案という考え方もあるようですが、どう思われますか?」というように提案してみてはどうだろうか。この表現のポイントは、「Y案という考え方」は、自分の意見ではない、ということである。あくまで客観的な立場から、「Y案という考え方」も存在することを紹介したに過ぎず、あなたが独自の反対意見を真正面から発言した、ということにはならない。

 このようなコミュニケーションを少し回りくどく感じる読者もいるかもしれない。確かに、英語を用いる米国などでは、そのカルチャー的にも、自分の主張をより明確に端的に言える空気がある。しかし、日本人や日本語は「和」を大事にしているからこそ、こうした丁寧な言葉のやり取りによって、丸くやわらかく伝える配慮が重要だと筆者は考えている。

とんがった人材の生きる組織とは

 「とんがった」人材は、問題を見抜き、対立を恐れず発言する能力があるからこそ、日本社会に適応した適切なコミュニケーション方法を身につける必要がある。そうすることで、その能力の本質的な必要性が社会から認識され、活躍の幅を広げることができるだろう。

 一方で、受け入れ側となる一人ひとりが、「とんがった」人材の能力を最大限に引き出そうというマインドセットをもつことも肝要である。彼ら/彼女らの能力を引き出すために、進んで傾聴と対話を繰り返す姿勢が求められている。

 この過程では、当然、互いに違和感を抱くことも少なくないかもしれない。しかし、こうした言葉のやり取りを、双方が前向きな姿勢で行う努力の積み重ねによって、イノベーティブなアイデアが生まれ、本当の意味でのダイバーシティを生かした組織へと成長していくのである。

 
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「革新」や「新機軸」と訳されるイノベーションを創出するには、前例踏襲や固定観念に捉われない姿勢が重要だ。時には慣例からの逸脱や成功確率が低いことに挑戦する勇気も必要だろう。
 平等主義や横並び意識の強い日本社会ではしばしば、そんな人材を〝尖った人〟と表現する。この言葉には、均一的で協調性がある人材を礼賛すると同時に、それに当てはまらない人材を揶揄する響きが感じられるが、果たしてそうなのか。
 〝尖る〟という表現を、「得意」分野を持つことと、「特異」な発想ができることという〝トクイ〟に換言すれば、そうした人材を適材適所に配置し、トクイを生かすことこそが、イノベーションを生む原動力であり、今の日本に求められていることではないか。
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