いよいよ2023年度が始まり、初々しい新社会人を見かける季節になった。今回、4月入社の彼ら/彼女ら(以下「彼ら」)が過ごした大学生活に目を向けてみたいと思う。
19年の大学入学者が多いかと思うが、その年の暮れから20年にかけて、中国で起きた新型ウイルスによる感染症の報道から、瞬く間に日本国内もコロナ禍に突入した。その後4月7日、東京都などで緊急事態宣言が発令され、医療崩壊などが叫ばれる前代未聞の危機的状況に直面した。このように、今年の新社会人は、大学2年生のスタートと同時にコロナ禍の生活を余儀なくさせられたわけである。
全てが違った大学生活
慶應義塾大学の場合、4月にキャンパスが閉鎖され、春学期(前期)の初回授業は5月にずれこんだ。その開催は手探りでのオンライン形式になった。
キャンパスで友人と会い、共に学び共に遊ぶ、という当たり前の学生生活は失われてしまった。20年秋ごろからは少しずつ対面授業が実施されたものの、翌年、大学キャンパスでの一斉のワクチン接種を経ても、完全に元通りの生活に戻ることはできなかった。筆者は主に3、4年生を指導しているが、この春の卒業生とは、例年実施していた合宿もかなわず、オフラインでの交流がきわめて少ないまま卒業していってしまった。
筆者の担当する「リーダーシップ基礎」や「交渉学」といった授業では、「対話」や「交渉」の実践的演習が最も重要な鍵になるため、100人超の受講者に対して、講義とディスカッションを組み合わせたオンライン運営は当初、困難を極めた。しかし、回を重ねるごとに、学生たちのアイデアと協力によって、白熱のディスカッションをも目にし、大きな成果を挙げることができた。一方で、ようやくほぼ全ての授業がキャンパスでできるようになり、3年ぶりに対面で「交渉」や「対話」のトレーニングを行ってみると、やはり直接会ってコミュニケーションをとることによって学びが深まることを実感した。
オンライン上では、人間のコミュニケーションで言語以上に重要と言われる身振り・手振りや距離感、雰囲気といった非言語コミュニケーションが大幅に制限されている。講義前後に他愛のない会話を交わしたり食事に行ったりする交流の時間がないことなど阻害要因もある。物理的に離れている以上、これらはどうしても克服することができず、学びの差があることは否めない。