2024年4月29日(月)

ニュースから学ぶ「交渉力」

2023年4月17日

今後も続く世代間の認識のずれ

 来年には、コロナ禍でクラスの友達に会う機会がないまま大学生活をスタートさせた世代が就職を迎える。さらに下の小学生や中高生になると、感染症対策としてマスクをつけているというよりも、①恥ずかしい 、②顔に自信がない 、③どう思われるか不安、といった理由から、マスクを外すことに抵抗を覚える状況が調査結果で明らかになっている

 前述したように、言葉以上に人間のコミュニケーションで重要な非言語要素の1つである表情が、マスクによって大部分隠された状態で人と接し、成長した彼らが、これまでと同じような精神的発達をするとは考えづらい。相手の表情を見ながら、自分の発言内容や言い方のニュアンスを変えるといったコミュニケーションの学びを重ねることができないためである。

 したがって、成長段階において全く異なる過程を経た世代の考え方が、従来の「当たり前」と大きく異なる部分があっても、ある意味致し方なく当然の帰結と言える。このことを常に意識し、なぜそう思うのか、なぜそうするのか、まずは相手を理解するための傾聴の姿勢を忘れてはならない。

 自分の期待と異なる反応が返ってきた時に、「それは違う」と頭ごなしに否定し、こうあるべきだと指導しても、相手の理解は得られずむしろ溝が深まるばかりだろう。自分では、年下を育成するために、あえて嫌なことも言わないといけない、という思いでいるとしても、相手が自分の話に耳を傾ける姿勢を持たなければ、その思いは空回りするだけである。まずは自分が相手の話を傾聴し、相手への価値理解を示すことで信頼関係が構築され、初めて自分の意見を真摯に聞いてもらう土俵ができる。

 このような考え方について、回りくどい、面倒だ、と感じる方も多いかもしれない。しかし、コロナで世の中が様変わりしてからすでに4度目の春を迎えている。長期にわたり若者の成長過程に大きな影響を与えていることは間違いない。

 この事実を踏まえ、近視眼的で対処療法的な対応ではなく、大局的な観点をもって構え、当たり前が異なる世代間でも円滑な人間関係の構築ができるよう、常に丁寧な言葉のやりとりを心掛けることが何よりも重要であることを強く訴えたい。

参考文献
田村次朗=渡邊竜介「コロナ禍で複雑化する課題に適応できるリーダーシップ力の育成 : オンライン教育におけるティーチングアシスタントの学びと貢献」説得交渉学研究12巻(2020)1-16頁
沢の鶴「若者世代の「価値観」と「コミュニケーション」に関する調査2022」(2023年3月8日、最終閲覧日2023年4月8日)
東京イセアクリニック「未成年のマスク需要」(2023年2月17日、最終閲覧日2023年4月8日)

   
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