暗黙知を知る機会が少ないという現実
だからこそ、4月から社会人となった彼らには、その事実をしっかりと認識し、筆者がリーダーシップ基礎教育で提唱している4つの力、すなわち、「傾聴力」、「対話力」、「交渉力」、「説得力」が重要になってくることを意識していただきたい。『「リーダーシップ基礎」入門』(東京書籍)などで理論を知り、意識して行動することにより、日々の生活の中でも力を磨くことが可能だ。
また、一足早く、コロナ禍で社会人になった20年以降に卒業した人たちは、対面での卒業式も入社式も中止されるという困難な社会人生活のスタートを迎えている。新入社員研修もすべてオンラインで実施され、在宅勤務が多く、上司と直接対面しないまま数カ月が過ぎた、などという状況もよく耳にした。彼らもまた入社後に築き上げるべきコミュニケーションの大切な要素が欠けていたと言える。
こうした世代を迎え入れる側の人間が彼らと対話する上で重要なのは、単なる世代による違いだけでなく、自分たちが若いころに経験し身につけた価値観とは全く異なる、想像もできなかった経験をもとにした考えや感性を有している人々と接する、という認識を持つことである。
従来の新入社員であれば、入社後に先輩社員の様子を見ながら自然に身につけられたであろう「社会人のイロハ」も、意識して教えなければ伝わらない。対面でともにする時間が少ないということは、彼らが暗黙知を得る機会がきわめて限られているということにほかならず、その点を考慮して接することが重要だ。
若い世代について、「挑戦」よりも「失敗しない」ことを選ぶ傾向にあるとも言われるが、そもそも周囲を見て刺激を受け、新たな挑戦をする土壌が整備されていないことにも理解を広げる必要がある。今までとは異なる部分で不足している彼らの経験や能力をどう高め、意欲を引き出すのか。相手の視点に立って考える「視点獲得能力」をフルに働かせて、新たな研修制度を導入するなど、受け入れ体制を見直すことも強く求められている。