ところが、これに真っ向から反対したのが年金制度を運用する厚生労働省だった。「積立金の運用は、専ら被保険者のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行う」という厚生年金保険法や国民年金法の規定から、“高リスク”のベンチャー投資に年金資金は回せない、というのだ。
年金を計画通りに払えればよく、運用利回りを上げるためにリスクを取る必要はないということだろう。制度上、実質的な運用利回りは年1.1%となっている。名目の賃金上昇率を上乗せするのが「実質」という意味だが、デフレだと賃金下落分を差し引くことになる。2011年度までの9年間で制度上の運用利回りは0.58%で良い計算で、この間のGPIFの利回りは2.42%だったから十二分に責任を果たしている、というわけである。
だが制度維持と言っても、現実には、保険料負担は年々上昇、17年には18.3%(会社・個人負担合計)になる。この負担の重さが非正規労働や無年金者を増やしているという指摘もある。さらに、基礎年金の国庫負担も2分の1に引き上げられた。年金利回りが高くなれば年金財政問題が大きく改善するのは当然である。
実は、GPIFの見直し問題は政治を舞台に長い間、議論されてきた問題だ。08年には経済財政諮問会議のグローバル化改革専門調査会が組織の独立性や専門性、透明性を確保するよう求める内容を報告書に盛り込んだ。運用を担う専門性の高い内外の金融人材を活用する仕組みづくりを求めたのである。その後、民主党政権下でも、厚労省に「GPIFの運営の在り方に関する検討会」などが置かれ議論された。民主党は行政刷新会議で、独立行政法人改革を進め、GPIFについては、独法ではなく固有の法律に基づいた法人に改組する方針が閣議決定された。それが再度の政権交代によって、凍結されている。
安倍内閣が閣議決定した「日本再興戦略」では、「有識者会議において検討を進め、提言を得る」とされているが、「本年秋までに結論」という期限が付いている。そこでどんな方針が示されるかは、今後の日本経済に大きな影響を与える。デフレから緩やかなインフレへと経済の前提を変え、巨大ファンドが運用姿勢を見直すことが、日本経済の再興には不可欠だろう。
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