無理に脱炭素を目指せばエネルギー価格の上昇が起こり、物価も大きな影響を受ける。例えば、将来自動車は電気あるいは水素で走ると考えられるが、電気、水素が他国よりも高ければ、輸送費も高くなり、物価を押し上げる。エネルギーを使わない産業はないので、全ての分野が影響を受ける。
これでは少子化は止まらない
社会保障人口問題研究所が70年までの人口推計を発表した。70年の人口は8700万人(中位推定)と今の約7割まで減少する。国は少子化対策を打ち出しているが、最も大切な対策は所得の向上だ。
少子化は合計特殊出生率の低下で引き起こされている。以前も述べたがその原因は、結婚しない人が増えているからだ。50年前に50歳独身の男性は約60人に1人だったが、今は約3人に1人だ(図-7)。結婚している世帯の子供の数は約2人でほとんど変化していない(図-8)。
多様化も独身が増えている理由の一つだろうが、お金、給与も大きな理由だ。年収別有婚率を見れば一目瞭然だ(図-9)。
少子化を防ぐ重要な対策は、収入を増やすことであり、そのためにはエネルギー価格の抑制が必要だ。70年までのG7各国の人口予測を見ると、日本が将来G7の中に留まれるのか心配になる(図-10)。
地道な脱炭素の取組を
脱炭素は、各国の事情を反映した形で進めるべきだ。主要国がエネルギー供給と気候変動対策で同じ目標を持つことはありえない。同じ目標を持つと、G7の中ではまず日本が大きな負担を負うことになる。下手をすると日本の一人負けだ。
必要なことは、50年脱炭素を必達目標と考えるのではなく、大きなコストを掛けずにエネルギー価格を抑制しながら脱炭素を進めることだ。例えば、日本企業が得意な省エネ技術を利用すれば世界の多くの国でエネルギー消費を抑制できる。
革新的な技術革新がない限り、50年の脱炭素は日本経済に大きなマイナスをもたらす。脱炭素に成功しても私たちが貧しくなるのでは元も子もない。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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