2024年5月6日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月31日

 このような状況が出てきた背景は何かと言うと、基本的にアルメニア側が実質的にはアゼルバイジャン側の勝利に終わった2020年の戦争の結果を踏まえて、支配領土についての要求を引き下げる方針に転換したことである。

 アルメニアはアゼルバイジャンとは違い、ロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)の参加国であり、ロシアのアルメニア支援に期待を寄せていたが、そのような支援は得られないと考えるに至ったからであると思われる。

 アルメニアとアゼルバイジャンは国力の面で差がある。人口はアルメニア300万に対しアゼルバイジャンは1030万であり、国内総生産(GDP)はアルメニアが約140億ドル、アゼルバイジャンが550億ドルである。防衛費もアゼルバイジャンが多い。

 2020年の両国間の戦争では、アゼルバイジャンがトルコから入手した無人機を使い、アルメニア軍に手ひどい打撃を与えた。ロシアは双方に停戦を求め、その停戦を監視するために、ナゴルノカラバフに2000人の平和維持軍を送った。停戦後も両国の衝突が断続的に起こったが、そうしたなかでアルメニア側がロシアの出方に不信感を強めたと思われる。

南部コーカサスで進む「ロシア離れ」

 この紛争においては、アフガニスタン、パキスタン、トルコがアゼルバイジャンを支持、フランス、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)がアルメニアを支持するという複雑な構図があったが、その構図も解消に向かうだろう。アゼルバイジャンはイスラム教シーア派の国であり、なぜ同じシーア派のイランがキリスト教国のアルメニア支持なのか、とにかく複雑である。

 南部コーカサスでは、これからトルコの影響力の増大とアルメニアのロシア離れ、ロシアの影響力の減退が起きる蓋然性が高いと思われる。

   
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