2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年2月3日

 ナゴルノ・カラバフ(以下「NK」と略記)紛争は、アゼルバイジャン領土の中にありながらアルメニア住民が多数を占めるNK地区が事実上独立している(但し国際的には承認されず)ため、アゼルバイジャンと激しく対立している問題である。アルメニア側はNKに加えて周辺の7県(アゼルバイジャン領土内)も占領していた。

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 昨年9月27日からアゼルバイジャンがトルコの支援も受けて激しく戦い、兵士の死者が双方合わせて5600人以上(それ以外に民間人死傷者も数百人)と大変悲惨な衝突となった。11月9日の停戦合意(ロシアが仲介でアゼルバイジャンは7つの県とNKの一部を取り戻した。今後5年間、ロシアの「平和維持部隊(約2000人)」が現地の停戦を監視する(更に5年間の延長もあり得る)。しかし、まだアルメニア系住民が多数のNKの扱いは何も決まっておらず、ロシア軍がいなくなれば紛争が再燃しかねない。つまり、紛争は未決着である。

 紛争取材等をしているジャーナリストのロシュは、1月6日付けのForeign Policy誌ウェブサイトに‘Armenia Buries Its Dead but Can’t Put to Rest the Horrors of Recent War’と題するルポを現地悲惨な状況を写真入りで寄稿し、「停戦後2ヶ月経っても、不信と敵意が強くあり、停戦合意違反の衝突も散発している。停戦後も平和は訪れておらず、紛争の根源の問題は未解決だ。双方間の憎しみは募り、地域の軍事化は更に進み、将来また紛争が起きるだろう」と述べている。

 勝ったアゼルバイジャンのアリエフ大統領は、武力行使が正解だったと確信しただろう。彼は、これまで調停をしていたOSCE(欧州安全保障協力機構「ミンスク・グループ」(共同議長はロシア、米国 、フランスの3カ国)の活動は役に立たなかったと批判している。アゼルバイジャンは 、アルメニア・ロビーの欧米での強い影響力に警戒している。

 1月11日にプーチン大統領はアゼルバイジャンのアリエフ大統領とアルメニアのパシニャン首相をモスクワに招き、3人で協議をした。その後発表された3首脳の共同声明は、運輸関係の協力しか書かれておらず肝心の停戦後の状況やNK問題への取り組みなどは書かれていない。 記者会見でもパシニャン首相は 「NKの法的地位は未解決」「OSCEの仲介で解決していく」と発言しており、ロシアに仲介を頼むつもりはないようだ。なお、交通の要衝地であるこの地域の運輸の問題への取り組みも重要で、3カ国の副首相級の会合開催に合意した。

 今回の紛争の結果、影響力を高めたのはトルコだ。エルドアン大統領は12月10日にバクーでの戦勝パレード観閲に参加し、またコーカサス3か国(アゼルバイジャン アルメニア、ジョージア)と周辺3か国(トルコ、ロシア、イラン)6か国の地域協力の枠組「プラットフォーム6」の創設を提案した。ロシアはトルコがこの地域で影響力を増すのを警戒しており、そのこともありプーチン大統領が1月11日にモスクワで3首脳会合を開催したのだ。

 中国も、一帯一路もあり交通の要衝であるこの地域の情勢に注目している。中国国際問題研究所研究員で元外交官の鄭浩は、今回の勝者側のトルコについて、①宿敵アルメニアの弱体化、地域での影響力増、②ロシアの注意を分散させ、中東・地中海でのロシアの行動を牽制(トルコとロシアはシリア、リビアで衝突している)、③ユーラシアの主要プレイヤーになる「オスマン帝国の夢」 が狙いだ、と指摘している。

 アゼルバイジャンのアリエフ大統領は、NKに一定程度の自治を認めるつもりもあまりないかもしれない。OSCEの調停も前途多難である。アリエフ大統領はアルメニア人を国際法廷に引き出すと言っているが、国際司法裁判所などに問題が付託される具体的な展望は無い。この地域での欧米の影響力が低下し、その空白をロシア、トルコ、中国 、イランが埋めていくという構図である。

  
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