2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年11月24日

 9月に再燃したナゴルノカラバフをめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの間の紛争は、11月9日に大きな転換点を迎えた。両国は同日、ロシアの仲介により停戦に合意、翌10日に停戦が成立した。9月27日に衝突が起きた後、10月10日(ロシアの仲介)、10月18日(ロシアの仲介)、10月25日(米国仲介)と、停戦合意が3度も結ばれたが、いずれもすぐ破られてきた。

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 しかし、この11月10日に成立した停戦合意は、以前の合意が死亡兵士の遺体の収容などの人道目的停戦であったのと異なり、より幅広い合意であり、今後も続くと思われる。ナゴルノカラバフ紛争の再燃は、ロシアとトルコの代理戦争になることが危惧されたが、そうなる可能性は低くなったように思われる。

 今回の停戦合意は、1990年代のナゴルノカラバフ紛争でアゼルバイジャンが失った領土の相当程度がアルメニアより返還されるとしている。要するに、トルコの支援を受けたアゼルバイジャン側が軍事的に優位に立つ中で、アルメニア側が敗北を認め、苦渋の決断をして、矛を収めたということである。

 カーネギー・ヨーロッパ国際平和基金のトーマス・デ・ワールは、11月11日付けニューヨークタイムズ紙掲載の論説‘Great-Power Politics Is Back’で、次のように、今回の停戦合意ではロシアもトルコも勝利者である、と指摘している。

・合意を作ったロシアは勝利者である。旧ソ連の他の紛争と違い、ロシアはナゴルノカラバフには兵力を派遣できていなかった。しかし今、1960人の平和維持部隊を派遣することになった。ロシアは影響力を失ってきていた地域で突然、軍事プレゼンスを得た。

・トルコも得をした。アゼルバイジャンを軍事的に支援し、トルコは東トルコからカスピ海にいたる回廊を確保し、中央アジアへの新しい貿易ルートを得た。

 この紛争での死者は5000人を超えるとプーチンは言っており、停戦が成立したことは、とりあえず歓迎できる。

 今後、アゼルバイジャン人の避難民は徐々に元の居住地に帰還できるようになるだろう。しかし、ナゴルノカラバフの多数派であるアルメニア人が安全で保護されていると感じられなければ、今後、新たな紛争につながる可能性は排除できない。国家間の軍事バランスは、アゼルバイジャン側がずっと優位にある。そういう中で今後5年間、この地域での平和維持を担うロシアとトルコがきちんと仕事をすることが、紛争の再燃を防ぐことになるだろう。

 難民の安全な帰還、復興、地雷除去、人道支援、人権侵害への取り組み、国際機関の関与などが重要となって来る。しかし、こうした分野は、ロシア、トルコの得意とするところではない。日本を含む西側の関与も考える必要がある。

  
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