2024年12月12日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月21日

 ナゴルノカラバフをめぐるアルメニアとアゼルバイジャンとの紛争が再燃している。ナゴルノカラバフは旧ソ連時代、アゼルバイジャンの一部であったが、1990年代、ソ連崩壊の過程で多数派のアルメニア人と少数派のアゼリ人との間で衝突が起こった。アルメニア人はアルメニアとの合併または独立を求め、アルメニアがそれを支持しているのに対し、アゼルバイジャンは自分の領土であり、そういうことは認められないとしている。これが戦争となり、1994年の停戦までに約3万人が死亡、百万人が居住地を追われた。現在はアルメニアがナゴルノカラバフを実質的に支配しているが、国際的にはアゼルバイジャンの領土であるとされている。

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 その間、ナゴルノカラバフの統合を目指すアルメニアと、奪還を目指すアゼルバイジャンとの間で火種がくすぶり続けてきた。今回の紛争再燃は、9月27日に起こった。双方が相手を非難しているが、アゼルバイジャンがナゴルノカラバフの少なくとも一部をとり戻すために攻撃を準備していたようだと報じられている。

 トルコが同じトルコ系のアゼルバイジャンを明確に支持していることが紛争の激化の背景にあると思われる。それが、アルメニアを支持するロシアとトルコとの対決の危険につながっている。トルコとロシアの対決がシリアやリビヤにおけるように代理戦争にとどまるならば、限定的な対決で済むだろう。しかし、アゼルバイジャンがアルメニア領まで攻撃すれば、ロシアは相互防衛条約に従い、アルメニア防衛をせざるを得ず、トルコはそれに対しアゼルバイジャンを支援せざるを得ないことになり、NATO加盟国トルコとロシアの直接的対決になりかねない。

 フィナンシャル・タイムズは10月3日「コーカサスでの紛争:ナゴルノカラバフでの戦闘はトルコとロシアを敵対関係におきうる」との社説を掲載し、「NATOはエルドアンに自制の必要を印象付け、彼が挑発しているように見える衝突では彼を助けには来ないと明らかにすべきである」と論じている。しかし、加盟国であるトルコを助けないなどということをすれば、NATO条約第5条の意味が問題になるだろう。

 1990年代の紛争の際には、アルメニア人側の士気が高く、アゼルバイジャン側がナゴルノカラバフの支配権と周辺地域をアルメニアに奪われたが、総合的な国力を見ると、アゼルバイジャンがアルメニアを上回る。人口ではアゼルバイジャンは1000万強、アルメニアは300万弱、GDPではアゼルバイジャンが470億ドル、アルメニアが125億ドルくらいである。アルメニアのナゴルノカラバフ支配には長期的には無理があるように思われる。

 欧州安保協力会議(OSCE)はこの問題についての調停を試みており、米露仏がその共同議長であるが、まず事態を鎮静化するために協力することが期待されている。国連のPKOに範をとった措置など、いろいろなことが考えられる。ロシアが積極的に仲介に関与しており、10月9日にラブロフ外相は、捕虜と遺体を交換するため10月10日正午から停戦することで合意したと発表した。しかし、停戦は翌11日には早くも破られた。民間人居住地域を爆撃したとして、双方は互いに非難している。停戦の行方は見通せない。紛争が代理戦争でとどまるのか、ロシアとトルコの対決につながるのか、今後とも注視していく必要がある。

 なお、アルメニアは1915年トルコがアルメニア人を大虐殺したのはジェノサイドであったと認めることを各国に求めており、トルコはそれに反発しているなど、トルコとアルメニアの関係はよくない。

  
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