世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年9月30日

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 9月11日、バーレーンがアラブ首長国連邦(UAE)に続いて、イスラエルと外交関係を樹立することを発表した。

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 ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャスは、9月12付け同紙掲載の論説‘Bahrain’s diplomatic agreement with Israel is a building block toward Middle East stability’で、今回の合意を歓迎、「中東でドミノが正しい方向に倒れ始めた」と評価している。また、鍵となるサウジの姿勢について、イグネイシャスは、8月にイスラエルとUAE間の商業航空機がサウジ上空を飛行するのを許可したことをもって、サウジがUAEの外交関係正常化への暗黙の支持を示した、と指摘する。

 イスラエルを承認し、外交関係を持つアラブ諸国が増えることはイスラエルにとり良いことであり、米国の熱心なイスラエル支持者、特にトランプ支持の福音主義者にとっては歓迎されることである。トランプ政権が大統領再選戦略の一つとしてそれを推進することは理解できる。日本としても、緊張緩和の動きということで、歓迎してもいいことかも知れない。しかし、イスラエル・UAEの外交関係設定合意にも同様に言えることだが、手放しで喜んでいいことでもない。

 アラブ諸国とイスラエルの間の真の和平は、パレスチナ問題の解決なくしてはあり得ないと考えられる。今回のような周辺部分での外交関係設定の合意は、本質的な問題の解決を推進する方向ではなく、それを阻害する方向に作用しかねない。

 サウジの姿勢については、サウジ自身がイスラエルとの外交関係設定に踏み切るためには、自らがしたアラブ和平提案を変更することを必要とし、そう簡単ではない。したがってサウジ・イスラエル間の外交関係設定もそう早くは実現しないだろう。イグネイシャスは中東情勢の安定化にこの合意は役立つとしているが、必ずしもそうは考えられない。

 中東地域は4民族、すなわちトルコ、ユダヤ、ペルシャ、アラブが角逐している地域である。したがって、こういう合意にイランとトルコがどう対応するか、アラブはどうかを考えざるを得ない。

 イランはこういう合意を全く歓迎しておらず、反対の立場である。イランはパレスチナを真に支援しているのは我々だけであると宣伝し、孤立したパレスチナもイランを頼りにしかねない。その結果、イランがパレスチナでの影響力を増やしかねない。トルコについても、イランと同じような態度に出かねないし、同じようなことが起こりかねない。

 アラブについては、4民族のうち、もっとも分裂し力を発揮していないが、今度のことはアラブの分裂をさらに深めると思われる。国のレベルでの違いは顕在化し、アラブ諸国の内部でも指導層とパレスチナに同情的な民衆との間の違いは大きくなるだろう。

 これらのことは中東情勢の安定化につながるとは言えない。中東情勢の今後は、これら4民族の動向、米露中EUの動向などを見ていく必要がある。上記のイグネイシャスのような見方は楽観的に過ぎると言えよう。

  
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