8月13日、米国の仲介によりイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)との間で国交樹立に合意したことが発表された。UAEとイスラエルの協定は、イスラエルがアラブの国と結んだ協定としては、1979年のエジプト、1994年のヨルダンに続き3番目となる。今回のイスラエル・UAEの相互承認、外交関係設定のニュースは大きなニュースである。ただ、これまでもイスラエルとUAEとの間にはかなり緊密な交流があったことは公然の秘密であり、それが正式化されたということであるともいえる。
イスラエルとUAEの間の平和ができたということであるから、歓迎すべきことではあり、EUも日本も歓迎の談話を出している。ただ、そう手放しで歓迎すべきことであるか疑問が残る。イスラエルとアラブの国との協定の意義は、中東和平交渉に資するか否かに大きくかかっている。中東和平交渉の根幹はイスラエル・パレスチナ紛争であり、これがこれら2国家の平和共存で解決できるか否かが重要である。しかし、今回のUAE・イスラエル合意がそれにつながる可能性は、あまりありそうにない。
中東和平の一方の当事者であるパレスチナ側は今回の合意に激しく反発しており、UAEを裏切者と考えていると思われる。イランはこの合意を当然のことながらイラン包囲網の一環とみなすと同時に、中東和平問題そのものへの関与を強めようとするだろう。トルコもこの合意を厳しく批判している。
UAEは、イスラエルが西岸の一部併合をしようとしていたのを止めさせ、2国家解決案の可能性をかろうじて救ったとして、その成果を誇示している。しかし、イスラエルが国際法に違反して強行しようとしていた行為をやめさせたというが、その様な無理筋の行為を抑えるために、見返りに何かを与えるということは好ましくない。悪い前例を作ることになる。
今回のUAEの決定には米国からの武器供与の格上げを得たいとの思惑があったようである。米国は地域でイスラエルに軍事的優位を維持させるために、周辺アラブ諸国への武器供与に際してイスラエルとの和平を結んでいるかどうかで差をつけている。エジプト、ヨルダンに供与されているのと同種類の武器が今後、UAEに供与されることになろう。例えば大型無人機なども供与されることになろう。米国からUAEに対してF-35戦闘機の供与を検討するというような話も報じられているが、これにはイスラエルが強く反対している。
UAEに続いてイスラエルと国交を正常化する可能性があるのはオマーン、モロッコ、バーレーンである。
重要なのはサウジであり、イスラエルはサウジとの国交正常化を望むだろう。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子はトランプの中東和平計画への支持を約束したが、彼の父親サルマン国王はエルサレム全域へのイスラエルの主権に敏感で、これを公に否認した。エルサレムにはイスラム教の第三の聖地があるためである。サルマン国王の意向を考えると、イスラエルとサウジとの国交正常化は、おそらく無理だろうと見られる。
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