7月2日、イランのナタンツの核施設で火災が発生した。サイバー攻撃という人もいれば、爆弾という人もいるが、イスラエルがおそらく米国と組んで起こした破壊工作であった可能性が疑われている。ナタンツの核施設ではイランが最新の遠心分離機を開発している。その開発はイラン核合意で規制されていたが、トランプが核合意から離脱し、イランに対する「最大限の圧力」を加える決定をして以来、イランももはや核合意の規制に縛られないとして開発を再開していたものである。
イスラエルはもともとイランの核をイスラエルの生存に対する脅威とみなし、10年前米国とともにStuxnetという破壊工作ソフトウェアでイランの遠心分離施設を攻撃したり、イランの核科学者を暗殺したりしてきた。ここにきてイランが濃縮活動を再開したことを脅威とみなし、イランの核開発活動の再活発化を阻止しようとしてもおかしくない。
イスラエルは、現在イランが米国の制裁もあって経済が困窮しているのみならず、レバノン、シリア、イラクでの活動が障害をきたしていることを見て、イランに攻勢をかける好機と考えている可能性もある。それに加え、トランプの再選が危ういとの見方が強まっており、今のうちに米国と組んでイランをたたくことを考えているのかもしれない。
イランでは7月2日のナタンツの核施設での火災の他に、6月26日にはパーチンの軍事基地での火災、7月3日にはシラーズの発電所での火災、7月4日にはカロウンの石油化学プラントでの火災など、不審な出来事が連続して起きており、いずれも破壊工作の疑いが濃いと見られている。
一方で、イスラエルでは、ネタニヤフ首相が情報機関モサド長官のYossi Cohenの任期を2021年6月まで延長することを発表した。Cohenは対イランの工作のベテランで、10年前のStuxnetによる破壊工作も指揮したと伝えられており、Cohenの任期の延長はイスラエルが対イラン工作を続ける、あるいは、強化することを示唆していると見られる。
イランの核計画を封じ込めるには2015年のような交渉をやるしかないという見方もあるが、たとえバイデンが大統領となり、イラン核合意に復帰したとしても2015年のような交渉が再び行われる可能性は低い。
まず、イランの内政である。イランでは、核合意を実現させたロウハニ大統領はイラン国民が期待したような経済の回復を実現できず、強硬派が台頭している。たとえ米国が核合意に復帰したとしても、イランが核合意を復活させようとするか疑わしい。その上、イランは、米国が核合意から離脱したのを受け、核合意の規制にとらわれないとして、濃縮ウランの貯蔵量を増やし、新型の遠心分離機の開発を再開している。イランが容易にこれらの活動を停止し、元の規制を遵守するとは思えない。
もともとイラン核合意に反対していたイスラエルは、新たな交渉が始まるか否かに拘わらずイランの核施設に対するサイバー攻撃あるいは破壊工作を続けることが予想される。このように、イランが最新の遠心分離機の開発を強化する一方で、イスラエルはイランの核開発を阻止する動きを強めることが予想され、イランの核をめぐって中東情勢は緊迫の度を強めそうである。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。