世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年6月12日

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 5月7日に就任したイラクのカディミ新首相(国家情報機関トップを務めていた)は、イラクにおけるイランの影響力の減少を図ろうとしている。カディミが議会に宛てた政府声明によれば、イランの代理者であるシーア派の民兵組織をイラク政府の支配下に置き、政府に威信を回復することであるという。

Khadi Ganiev/iStock / Getty Images Plus

 イランはサダム・フセインの失脚以降、同じシーア派となったイラクを影響下に置いた。その象徴がシーア派の民兵組織「人民動員軍」で、実質上はイランの革命防衛隊の指揮下にあった。イランが支援するKataib Hezbollahなどのイラクの民兵組織は「人民動員軍」に属している。「人民動員軍」は形式的にはイラクの指揮下にあるが、地域においてイランの力を投影する任務を負っている。2014-18年にイラクの首相を務めたアバディは「人民動員軍」の野心を制限しようとしたがうまくいかず、後任のアブドゥル・マハディ首相は逆に「人民動員軍」の予算を20%増やし、イラク・シリア国境地域などの戦略的地域で勢力を伸ばすのを助けた。カディミは、そのような状態を終わらせることを目指している。

 状況はカミディにとり有利のようである。その背景には情勢の変化がある。イラクがイランの影響力を払拭するのは容易ではないが、その時期があるとすれば今である。それはイラクで機が熟しているのみならず、イランにおいても機が熟しているからである。

 まず、2019年10月以来のイラクでの大規模デモがある。デモは反政府であると同時に反イランであった。デモ隊はイラクに対するイランの介入を激しく非難した。デモの結果、アブドゥル・マハディ首相が辞任し、2003年のサダム・フセインの失脚以来初めて反イランのシーア派がイラク政治の主流となった。デモ隊はイランの干渉を受けない主権国家を要求し、イラクのシーア派の最高権威であるシスタニもそれを支持した。

 次に、本年1月3日の米軍爆撃によるイラン革命防衛隊の精鋭コッズ部隊の司令官ソレイマニと「人民動員軍」の副司令官ムハンディスの殺害である。両者はイランのイラク支配に大きくかかわっていた。

 その上、イランが弱体化した。基本的には最大限の圧力を加えるというトランプの政策によりイラン経済は疲弊し、イラクやシリアに対する軍事援助費に苦慮するようになった。そこに新型コロナウイルスのパンデミックが襲い、イラン経済はさらなる打撃を受けたのである。

 イラクはイランの勢力拡大にとって重要である。イラクはイランからレバノンに至るシーア派の三日月地帯の要衝であり、イランの地域での影響力拡大の拠点である。そのイラクでイランの影響力が減少することはイランにとって大きな痛手となる。その上イランは米国に制裁やパンデミックによって経済が弱体化しており、中東での影響力が低下することは避けられない。イランのイラクにおける影響力の低下は、中東における地政学的状況に変化をもたらしうる。

  
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