日本が考えなければならないのは、そうした事態を生起させないために何をしなければならないのかを考えることだ。そして、そのカギとなるのは「核」をめぐる日米韓の連携強化にほかならない。
脅威認識を一にした新日韓関係
北朝鮮の核の脅威に対し、動き出したのは韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領だ。核武装を求める韓国世論の高まりもあるが、4月下旬、ワシントンでバイデン米大統領と会談し、米国による韓国への拡大抑止を強化することで一致した。
具体的には、米韓両国は核抑止の協議グループを設け、韓国は米国の核攻撃の計画策定などに意見を反映させることが可能となった。さらに米国は核兵器を搭載できる戦略原子力潜水艦の韓国寄港を決定、バイデン大統領は米韓首脳会談後の記者会見で、「(北朝鮮が核を使用すれば)政権は終焉する」と強い警告を発し、米国は韓国防衛への関与を鮮明にした。
対日関係についても、昨年5月の政権発足後、尹大統領はすぐさま5年ぶりとなる日米韓首脳会談を開き、今年に入ってからは3月と5月に東京とソウルで日韓首脳会談を、そしてG7サミットに招待国として参加し、異例の頻度となる岸田首相と3度目の首脳会談を行った。会談では北朝鮮への対応で連携を密にすることが確認されたという。
しかも、G7での会談に先立って、岸田、尹両氏は、広島・平和記念公園内にある「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」で献花し、黙とうしている。日韓両首脳がそろって慰霊碑を訪れたのは初めてで、岸田首相は「日韓関係の進展を如実に示すものだ」と語り、尹大統領も「誠意ある姿を示してくれた首相の勇気と決断はとても大切だ」と言葉をつないでいる。
慰安婦問題をめぐる日韓合意の破棄、日本企業に元徴用工への賠償命令、韓国軍艦艇による自衛隊機への火器管制レーダーの照射……。反日行為を繰り返し、日韓関係を戦後最悪レベルにまで貶めた文在寅(ムン・ジェイン)前政権とは真逆に、尹大統領によって日韓関係は好転し、新たな節目を迎えている。今こそ日韓は、北朝鮮の核・ミサイルという共通の脅威認識を土台にした具体的な安保協力を構築しなければならない。
強靭な「核の傘」という日米韓の新戦略
日韓は互いに米国と同盟を結び、日韓それぞれが攻撃を受ければ、米国が核を含む戦力で両国を守る拡大抑止、いわゆる「核の傘」という仕組みがある。だが日本は、集団的自衛権の一部行使を容認し、反撃能力の保有に舵を切ったものの、肝心の「核の傘」については、戦争で被爆した核アレルギーに加え、非核三原則(持たず・作らず・持ち込ませず)を理由に米国任せにしてきた。返還前の沖縄や小笠原諸島を除き、戦後、日本本土に米国の核兵器が配備されたことはなく、これまでの日米同盟は、北大西洋条約機構(NATO)に比べ、極めて「核」が希薄な関係でもあった。