2024年5月3日(金)

21世紀の安全保障論

2023年5月31日

 だが前述したように、深刻な北朝鮮の脅威を前に、韓国・尹政権が核の傘の信頼性を米国に求めたように、今こそ日本も国民の命を守るために、希薄な「核」から脱皮する必要がある。まずは日米や日米韓の共同演習時に米戦略原潜の日本寄港や戦略爆撃機の展開などが可能になるよう「持ち込ませず」の運用見直しに取り組む必要がある。

 「核なき世界の実現」は崇高な理想であり、求め続けなければならない目標だが、北朝鮮だけでなく、中国とロシアという核大国に直面している日本は、米韓が核抑止の協議グループを設けたように、日米も閣僚級の協議グループを設け、米国の核戦略に日本の意見を反映させることのできる仕組み作りが急務だ。そうした仕組み作りを通して、核を持たない日本と韓国を覆うような広大で強靭な米国による核の傘が実現できるはずだ。それこそが国民の命を守る抑止力となる。

サミットで言及されなかった〝大国〟への視点

 本稿執筆中の5月29日、北朝鮮から海上保安庁に対し、5月31日から6月11日の間に、「衛星」と称する弾道ミサイルを発射するという通報があったことが明らかとなり、岸田首相は「日米韓の関係を通じて緊密な関係を図っていきたい」と語った。北朝鮮の核の脅威を前に、日韓関係の急速な好転がもたらした言葉でもあるが、それを苦々しく思っている国があるとすれば、それは中国ではないだろうか。

 北朝鮮が核開発とミサイル発射を繰り返せば繰り返すほど、「核」をめぐる日米韓の連携は強固となり、中国にすれば、東アジアにおける核とミサイルの優位を脅かされかねないと思っても不思議ではない。

 G7サミットでは、「ロシアのウクライナ侵攻をやめさせ、即時撤退するよう促すことを中国に求める」との首脳宣言が出されたが、北朝鮮の弾道ミサイル発射を非難するだけでなく、日本は議長国として「北朝鮮の核開発とミサイル発射を自制するよう中国に求める」という文言を加えてもよかったのではないかと思う。

 中国の庇護と支えなくして北朝鮮の核・ミサイル開発は成り立たない。であるならば、北朝鮮に対して中国に大国としての責任を担わせることこそ、サミット前に岸田首相が語っていた「現実的で具体的な取り組み」ではないだろうか。

 今後も日韓が連携を強化し続け、米国の「核の傘」の信頼を高める。中国が嫌がる圧力を掛け続けることで、中国が北の野放図な振る舞いに自制を求める。そうした北朝鮮の核の脅威に対する間接的な戦略も日米韓は推し進めていかなければならない。

   
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