これに加えて、チケット収入も大事な収益源だ。だが、全てを需要と供給のバランスに任せてしまうと、全体が高騰してしまう。
そうすると、限られた人だけが参加できることとなり、その公演だけでなく、ジャンルごと社会的な影響力を失ってしまうことにもなる。何よりも、芸術もスポーツもその中核となる感動体験というのは、元来は貨幣価値を超えたものだが、公演が完全に富裕層独占となってしまうと、その価値自体が社会的に支えられなくなる。
高額も低額もバランスとれた設定
そこで、多くの場合は価格に幅を持たせるようにしている。米国の場合、例えばニューヨークのメトロポリタン・オペラ(MET)の場合は、2階正面の特等席は500ドルだが、5階席になると40ドルを切る。ポピュラー音楽のスタジアム公演の場合は、ステージ正面のダンスのできるゾーンが最高で、人気歌手の場合は2000ドルするが、一方で、外野の上段だと100ドル程度だ。
野球のMLBの場合、ネット裏は1000ドルだが、内外野の最上段だと40ドルという具合だ。日本的に言えば、S席からD席の差というわけだが、それが10倍から20倍というのが相場である。
この「10倍から20倍」という設定だが、最高価格の席は「値段が高すぎる」ので即座に完売にはならない。その一方で、一番安いチケットの場合は「席が遠すぎ」たり、「一部が見えない」など「難あり」なので、これもそう簡単には売り切れとはならない。
いわば絶妙なバランスとなっており、社会的にも公演が「一部の富裕層だけのもの」とはならない。また、全体の売上が最適化されることで、興行がビジネスとして成立するし、転売の横行によって市場が荒らされることも減った。
転売に関しては、米国では基本的に自由であり、2015年前後まではネットを使った転売サイトを利用して、明らかに差益を稼ぐための行為が横行していた。だが、その後は転売サイトが発売元と提携することで、需給バランスを綿密に計算して価格を最適化したり、場合によっては公式サイトの販売価格が需給で変動するようにしたりした結果、現在の姿になっている。
もちろん、全体的に「高すぎる」という批判はあるが、例えば学生向けや家族連れ向けにディスカウント価格を設定するなど、公演・興行が「一部の層向けのもの」となるのを防いでいる。例外は、アメリカンフットボールのNFLで、年間の公式戦が17試合しかないので、どうしてもチケットが高騰する。そこで、熱心なファンはスタジアム直近の駐車場でナマの歓声を聞きながらBBQをする、というカルチャーが成立している。