2024年12月10日(火)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2023年5月12日

 5月11日、財務省から公表された3月経常収支は+2兆2781億円と2カ月連続で+2兆円の大台を超える黒字となった。1~3月期の経常黒字は1月の大幅赤字が響いて+2兆5430億円にとどまっているが、このままいけば2022年通年の黒字(+11兆5466億円)は超えてくる可能性は高い。

訪日観光客が増加し、日本の経常収支を押し上げている(長田洋平/アフロ)

 昨年は半導体を筆頭とする供給制約や鎖国政策を受けた訪日外国人観光客(インバウンド)の停滞という特殊要因が貿易・サービス収支を実力以上に悪化させていた経緯があるため、「前年対比で経常収支は改善」というのがやはりメインシナリオになる。しかし、前回のコラム『外貨が入ってこない日本 経常黒字でも「円」が脆弱な理由』でも議論したように、そもそも第一次所得収支黒字に円買いが期待できない以上、貿易サービス収支で赤字が続くと「経常収支は黒字でも需給は円売り超過」という実情が続くことになる。それが米金利低下でも円高にならない原因だと筆者は考えており、その状況は続くと考えたい。

 当面、日本の経常収支において耳目を引く項目はやはり旅行収支になるのだろう。1~3月期を終えたところでの旅行収支黒字が+7408億円と四半期の黒字としては2019年4~6月期以来、15期ぶりの水準まで回復している。鎖国政策の真っ只中だったので参考にはならないが、22年1~3月期の旅行収支黒字が+433億円だったことを思えば、1年で景色がかなり変っていることが分かる。

 訪日外客数の水準で見てもようやくパンデミック前の水準が視野に入ってきた状況とも言える(図表①)。例年4~7月が訪日外国人観光客(インバウンド)需要のピークであることを踏まえれば、4月以降の数字はさらに顕著な改善を確認するはずである。これを日本経済の追い風にすべきという論調もますます強まってくるだろう。

 しかし、物事には功罪がある。望む望まないにかかわらず、日本が能動的に外貨を稼ぐことができる経路はもはや旅行収支くらいしかないため、それを日本経済の追い風と見なすような論調は何も間違っていないし、もう止めることもできない。旅行収支などから構成されるサービス収支はアウトライト(買い切り・売り切り)の為替売買を含むので、旅行収支黒字の拡大は過度な円安を抑制する効果を持つことも期待されるし、インバウンドが日本を周遊することで旅行収支以上に日本経済への前向きな効果もきたいできるだろう。日本人の人数が減る以上、外国人の財布に頼るのは合理的な政策である。

 それが訪日外国人消費動向調査や国際収支統計における旅行収支に反映され、この一部分だけを切り取ればポジティブなニュースとして伝えられることも間違いではない。しかし、少しずつネガティブな側面を感じつつある向きもあるのではないか。今回はそこに焦点を当てたい。


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