2024年7月18日(木)

Wedge REPORT

2023年3月24日

2020年3月当時の奈良公園近くの繁華街。あれから3年、日本の観光地には賑わいが戻りつつあるが……(TOMOHIRO OHSUMI/GETTYIMAGES)

 全国旅行支援と、行動制限の緩和によるボーナス需要に助けられたが、今後は各観光地間の競争も始まる。まだまだ安心はできない」。奈良市観光協会の髙橋一専務理事は危機感を募らせる。

 コロナ禍から経済活動が正常化に向かう中、観光者「数」は回復しつつある。最新の統計によれば、昨年10~12月の国内旅行者数は約1億1077万人(2019年同期比16・6%減)、今年1月の訪日外国人旅行者数は約150万人(同44・3%減)となった。

 近鉄奈良駅近くの老舗旅館「春日ホテル」の増田友宏社長も「現在は、宿泊だけを見ればコロナ前の水準まで回復している」と胸をなでおろす。

 だが、日本の観光業者を取り巻く情勢は依然として厳しく、観光客の「数」が増加しても手放しには喜べない事情がある。足元の状況を確かめに、小誌記者は日本有数の観光地・奈良の現場を歩いた。すると、二つの大きな変化や課題が見えてきた。

 一つには、社会情勢の変化である。奈良市内のある土産物屋の店主は「物価高などの影響なのか、全国旅行支援のクーポン券しか使わないお客も多い。客単価はコロナ禍前と比べると明らかに落ちている」と語った。

 ニーズの変化もある。「観光後に職場などでお土産を配る文化が衰退し、売り上げが減っている」(奈良漬メーカー「べっぴん奈良漬」の五十嵐裕希代表)。また前出の春日ホテル・増田社長は「ホテルの宴会場の稼働率は、いまだ3割程度にとどまり、回復の兆しが見えない」と語る。

 特に宿泊業をとりまく情勢は様変わりした。かつては旅行代理店が主催する団体旅行などが中心だったが、インターネット上で取引が完結するOTA(オンライン・トラベル・エージェント)の普及で、観光客自ら宿を選ぶ個人旅行が主流になった。この変化はコロナ禍を経て加速し、旧来のビジネスモデルからの脱却が求められている。

ゼロゼロ融資の返済という〝時限爆弾〟

 もう一つ挙げられるのは、実質無利子・無担保融資、いわゆる「ゼロゼロ融資」の返済だ。これは今後、「重荷」として、観光業者にのしかかってくることは間違いない。

 ゼロゼロ融資とは、コロナ禍の影響を受けた「中小企業者への資金繰り支援を強化するため」(経済産業省HP)、①3年間の利子は都道府県が負担(国が財政支援)、②無担保、③最大5年間は元本の返済が据え置きされる、という融資制度だ。20年3月より政府系金融機関からの融資が始まり、同年5月からは民間金融機関でも始まった。新規受け付けは22年9月で終了し、融資総額は約43兆円にも上る。

 ゼロゼロ融資を利用した奈良市内の小売店の店主は「20年に1000万円を借りた時は、決算書の提出と会計事務所の口添え、30分の面談だけだった。22年に追加で500万円を借りた時は、面談すらなかった」と振り返る。

 地方金融機関の担当者たちは「政府系金融機関での受け付けが手いっぱいとなる中で、(融資先への)円滑な資金供給を何よりも優先した対応を行った」とする一方で「破綻懸念先(経営破綻に陥る可能性が大きい債務者)にも貸した」との内実も明かす。まさに、モラルハザードが起きていた実態がうかがえる。返済は今年春から本格化するとされ、この〝時限爆弾〟を抱えた中小・零細の観光業者は多い。

 債務が焦げ付く恐れはどれだけあるのか。ある地方金融機関の担当者は、自らの営業エリア内の観光業者について「元本に手を付けずに全額返済できそうなのが3割、元本の返済を始められそうなのが2割。残りの5割は元本返済まで手が回らず、借り換えなどを繰り返すことになるのではないか」とその見通しを語る。

 中小企業に詳しい立教大学名誉教授の山口義行氏は「政府系ゼロゼロ融資についても、一定の割合は元本返済の据え置き期間延長が繰り返されながら、実質的に永久劣後ローン(返済期限がない債務)の形になるのではないか。ならば今からでもゼロゼロ融資を永久劣後ローンに転換するべきだ」と提言する。そもそも、ゼロゼロ融資は制度自体、矛盾を内包している。「緊急事態宣言」が何度も発出され、人の動きはストップした。そのような中、融資という形でばら撒いたとしても、一体、何に投資しろというのか。

 山口名誉教授は「コロナ禍が明け、これからという時に返済が足かせになっている。本来は資本注入の形にすべきだった。そうすれば金融機関も、経営が危うい事業者にまでばら撒くことはなかったはずだ」と指摘する。

 また、慶應義塾大学経済学部の櫻川昌哉教授は「救済をするにしても、合理化や経営改善についてなどの研修をセットにすべきである。今まで通りのやり方では、救済しても〝生きた金〟にならない」と警鐘を鳴らす。


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