いずれ深刻視されるインバウンド関連の供給制約
もちろん、それでもインバウンド消費が日本経済にとって有難い存在であることに変わりはないが、「日本が安くなっている」は「外国が高くなっている」と裏表であるため、日本人が海外で財・サービスを欲する場合は、やはり割高に感じることになる。そうなると日本人の旅行需要も「海外ではなく国内で」という選択になりやすいだろうから、余計に宿泊・飲食サービス業における需給が逼迫しやすくなる。
これは日銀短観における雇用判断DIが未曽有の「不足」超を記録している現状に象徴される(図表③)。既に飲食店では人手確保が難しいという理由でランチ営業を諦めたり、テイクアウトに限ったりする店が散見され始めている。
日本特有の防疫政策が長引いた過去3年で宿泊・飲食サービスは特に悪者扱いされてきた経緯があり、その結果として業界をまたいだ労働移動も多く促され構造的な人手不足に陥っているという指摘もある。さらに「半世紀ぶりの円安」で外国人労働者は日本から他国へ移ってしまうケースも追い打ちをかけていそうである。周知の通り、外国人労働者にとりわけ依存してきたのが宿泊・飲食サービスという業種だった。
引き続き、インバウンド需要の拡大はポジティブな話題として伝えられるだろうが、いずれ供給制約の方がクローズアップされやすくなるだろう。供給以上に需要を消化するのは無理なので、いずれ政策的に規制をかけるような展開も無いとは言えない。
日本人が円建て資産の脆弱性に気づく契機に?
アベノミクスという旗印の下、インバウンドはパンデミックもありながら過去10年で爆発的に増えてきたし、いずれ既往ピークを更新する勢いである。なんといってもまだインバウンド需要の3割を占める中国人の来訪が封じられた状態にあることを忘れてはならない。
しかし、これまでは功罪の「功」の部分ばかりが注目されていたが、「罪」の部分としての国内物価上昇や人手不足なども同じくらい注目される局面に入っていくことが予想される。もっとも、日本社会がどう感じようとも、基本的に「上手く共存する」しか道は無い。そのために行われる財政支出や法規制などが日本社会をどのように変えていくのかという切り口の議論も今後浮上してくるだろう。
為替市場の観点からは「弱い円」を痛感する国民が増える中で外貨建て資産への運用が増えたりする展開に注目したい。ちょうど5月1日付の日本経済新聞は『外貨資産「増やした」4割 若手投資家、日本より米国株』と題した記事を報じていた。
この点は別途、資金循環統計などの動きを踏まえてレビューするが、外国人が「安い安い」と言いながら国内で消費・投資を増やし、これに連れて日常生活のコストが上がる中、円建て資産の脆弱性を実感する日本人が増えてきてもおかしくはない。感度の高い若年世代ほどそれを感じ始めているのではないのか。