2024年4月23日(火)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2023年5月12日

物価上昇という副作用

 こうした論点が功罪の「功」だとすれば「罪」は何か。既に多くの日本人が感じ始めている通り、財・サービス価格の上昇には目を向けざるを得ない。

 外国人の消費・投資需要が存在感を高める以上、企業の価格設定行動も当然、これに合わせるケースが増える。いちいち日本人用と外国人用で値札を分けるような行為はメニューコストがかかり過ぎるし、有り得ない。供給される財・サービスの総量が変わらず需要が増えるのだから、当然それらの価格は上がる。

 例えば、ゴールデンウィーク(GW)に行楽へ出掛けた日本人は各地でインバウンドの劇的な増加を感じたのではないか。この際、「値段が高過ぎて諦めた」もしくは「外国人が沢山いるため目的地に入ることができなかった」といった経験をしたことはないだろうか。

 筆者はGW早々、名古屋へ出張する機会があったのだが、そこで類似の経験をした。帰京時点で直近(16時半頃)の「のぞみ」に乗ろうとすると、自由席や指定席そしてグリーン車までも埋まっていた。平日の夕方から夜にかけては確かに混み合う時間帯だが、乗車直前でもグリーン車まで埋まっているというケースは今まで経験が無い。

 これは出張者だけの需要では無いことを強く感じたし、事実、外国人観光客が多く乗車していた。少なくとも筆者の記憶ではあまり見たことのない光景である。このような話は出張先のホテル代高騰によって予算内で宿泊可能なホテルが徐々に中心街から遠ざかっているというケースにも繋がる。

 外国人という新しい消費者が質(予算)でも量(訪日客数)でも増えている以上、日本人がこれまで通りの消費行動を貫くのは難しくなる。外貨獲得と引き換えに日本人がこうした状況をどう受け止めるかは社会的な関心事になってくるだろう。

 外国人を選り好みしながら商売をしない限り、こうした状況は続くだろうから、解決は根本的に難しい。また、パンデミックを通じて思い知ったように、旅行収支の稼ぎに賭けるというのは結局のところ、外需依存である。かつて日本経済が財の輸出主導で成長していた時代、「外需依存度が大きすぎるのは危険。内需主導型の経済に切り替えるべき」という論調が強まったが、インバウンド頼みの状況はこうした問題を解決できない。

インバウンド増加が円安相殺されているという事実

 そもそも何故インバウンドが増えているのかという点を改めて確認しておきたい。それは「日本が観光地として魅力的である」という事実は確かにあるとしても、やはり「安いから」という事実が無視できない。

 実質実効為替レート(REER)が「半世紀ぶりの円安」ということは主要貿易相手国から見た日本の財・サービスが半世紀ぶりのバーゲンセールに映っている可能性を示す。年初4カ月間を振り返れば、名目ベースの世界ではドル/円相場が10円以上のレンジで乱高下しており相応に動いている印象を持つかもしれないが、REERは3カ月連続(1~3月、※4月は未公表)で下落している。

 訪日外国人からすればパンデック前と同程度の(外貨建て)予算で日本の財やサービスを消費しているつもりかもしれないが、円建てで見れば、つまり日本人から見れば顕著な増加に映る。インバウンド1人当たりの旅行支出がパンデミック直前からの比較で+24%増えていることが話題になりやすいものの、これは同期間におけるREERの下落率とほぼ一致している(図表②)。インバウンド消費の増加は日本の財・サービスの付加価値が増した結果として沢山買って貰えるようになったわけではなく、単に円換算でかさ上げされるようになったというのが実情に思える。


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