2024年11月22日(金)

#財政危機と闘います

2023年6月16日

歳出改革は実行できるのか?

 岸田首相は、薬価見直しなどの社会保障費の歳出削減で財源を捻出する方針とされ、具体的な内容は、改革工程表を策定する中で示していくとした。ただし、社会保障給付費132.2兆円のうち年金(55.6兆円)、医療(42.7兆円)、介護(11.4兆円)だけで、全体の83%超と大部分が占められており、こうした社会保障財政に対する財源は一般会計から社会保障関係費として2023年には36.9兆円が拠出されている。予算総額(当初)114.4兆円の32.3%を占める。

 お膝元の自民党内からも「社会保障費は削減すべきでない」とけん制する声も聞かれるなかで、歳出改革によりどれだけの財源が捻出できるかは見通せない。

 骨太の方針で歳出改革が本格的に進められたのは、小泉純一郎内閣の時の「骨太の方針2005」であり、財政再建に向けて「歳出・歳入の一体改革」を打ち出していた。具体的には、国と地方の歳出削減と、増税など歳入増加策を一体的に進めようとする方針であり、(i)“歳出削減なくして増税なし”の考え方の下、歳出削減、行政改革を徹底し、必要となる税負担増を極力小さくする「小さくて効率的な政府原則」、(ⅱ)経済活力と財政健全化の両立を図る「活力原則」、(ⅲ)改革の選択肢や将来の見通し等を国民に提示しながら検討する「透明性原則」という3つの原則を根幹に置いていた。

 特に、歳出改革については社会保障費の抑制が念頭に置かれ、「社会保障給付費の伸びについて、特に伸びの著しい医療を念頭に、医療費適正化の実質的な成果を目指す政策目標を設定し、定期的にその達成状況をあらゆる観点から検証した上で、達成のための必要な措置を講ずることとされ、国民が受容しうる負担水準、人口高齢化、地域での取組、医療の特性等を踏まえ、具体的な措置の内容とあわせて平成17 年中に結論を得た上で、平成18 年度医療制度改革を断行する」とされた。

 その結果、「骨太の方針2006」において、11年度までの5年間で自然増から1兆1000億円の抑制(年平均で2200億円)を図ることが掲げられたが、その後「骨太の方針2009」では経済状況の悪化などからこの抑制方針が撤回された。

 つまり、カリスマ的な人気を誇った小泉内閣でも社会保障費に関しては削減ではなく増加幅の圧縮でしかなかった点には注意が必要であろう。岸田内閣はよほどの覚悟を決めて取り組まない限り、社会保障費の削減は絵に描いた餅に終わる可能性が高い。

結局は国民負担ともいえる支援金制度の創設

 「骨太の方針2023」では、さらに、企業や国民に幅広く負担を求める「支援金制度」を構築する方針を打ち出している。この支援金制度がどのようなものなのか具体像ははっきりしていないものの、社会保険料の引き上げで財源を賄うことになれば、国民の直接の負担増につながる。また、この支援金制度は、既存の子ども・子育て拠出金のスキームを流用する可能性もある。

 子ども・子育て拠出金とは、子育てに必要な費用を社会全体で支援するという理念のもと、厚生年金の適用事業所の事業主が厚生年金保険加入者全員分の拠出金(標準報酬月額・標準賞与額に拠出金率を掛けて算出される)を負担することとされている。したがって、徴収などの事務手続きも日本年金機構が行っている。

 現在の拠出金率は、14年度には0.15%であったものが、段階的に引き上げられ、22年度現在0.36%となっている。適用事業所は、労使折半の厚生年金、健康保険に加えてこの拠出金を全額負担している。

 結局、労働者が直接負担せず、企業が負担しているように見えても、企業から見れば人件費が増加することになるので、結局、私たちの賃金か雇用が抑制されることになる。私たちも間接的な負担を負うことには変わりはない。


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