2024年7月22日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年7月3日

 他方、この論説でも強調されているように、インドにとってロシアは中国に対抗する上での長年の強力なパートナーであり軍備もいまだ半分はロシア製である。また、ロシアにとって、インドはエネルギー資源や武器の重要市場であり、ロシア側からインドとの関係を悪化させる恐れもないであろう。

実務面で緊密化し、中国に対抗しロシアを希薄に

 しかし、米国との防衛面での実務的な協力関係は緊密化しており、これは中国に対する抑止の効果がある。先端企業の投資や技術移転などの協力強化、サプライチェーンでの米印関係の緊密化は、相対的に印露関係の希薄化、経済面で中国に対抗する体制構築の意味を持ち、まさに明文の防衛条約はないが、より効果的なソフトな同盟関係を構築するものといってよい。

 また個人的な信頼関係も重要であろう。バイデンは、2006年に上院議員としてインドを訪問した際、「2020年には世界で最も近い2つの国がインドと米国となることが夢だ」と述べ、2013年副大統領としてインドを訪問した際は、自らの先祖が東インド会社の船長でインドに定住したことを明かしたと伝えられる。

 2016年のモディの1回目の米国議会演説では、米印両国は「歴史の迷いを克服した」と宣言し、オバマ政権で、ミサイル技術管理や原子力、サイバーセキュリテイに関する協力が開始された。

 問題は、ロシアの中国依存が高まる中で、米印関係の緊密化はカシミール問題で対立するパキスタンを一層中国寄り、ロシア寄りにする恐れがあること、モディの野党勢力に対する強権的対応やイスラム系住民に対する人権侵害などに対する米国内の批判などであろうが、経済面に焦点を当てた関係緊密化の障害とはならないであろう。

 今般のモディの訪米で米印関係強化に弾みがつくことにより、クアッドや自由で開かれたインド太平洋構想、更には米国によるIPEF(インド太平洋経済枠組み)イニシアティブにも良い影響が出るのではないかと思われる。

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