2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2023年7月8日

日常生活から離れ
大きな時間軸で考える

 髙崎さんは一昨年の夏、能動的に2週間の休みを取った。その間はキーボードに一切触らないことを徹底し、家族みんなでパリから南に下って地中海側に向かった。時間はたっぷりあるので特に一日の予定は決めず、海水浴をしたり、登山を楽しんだという。自然と触れ合い、そして普段はなかなか時間がとれなくて読めない本たちを沢山読んだ。

 「日常生活から離れることで、気づけば、大きな時間軸で物事を考えていました。自分の人生でこれから何を達成したいのか。家族とどのような時間を過ごしてきたいのか。自然と仕事にも思いを巡らせましたが、やらなければいけない目の前の仕事ではなく、今後仕事を通じて自分が何をしたいか、どうなりたいか、といった大きな見通しを立てることに意識が向いていたように思います」

 そうしてバカンスから戻り、久しぶりの仕事に就くために自宅PCの前に座ったとき、それまで感じたことがない嬉しさや喜びを実感したという。

 「だからといって『フランスが良くて、日本がダメ』と伝えたいわけではありません。両国の働き方にはそれぞれの良さがあり、社会的な価値観も異なるので決して優劣をつけられるものではない。ただ、バカンスの効能とそれを実装したフランスの事例を紹介するこの本を手に取って、これまでにない視点を獲得してくれたり、そのエッセンスをご自身の仕事や職場に取り入れたりしてくれれば嬉しいな、と思います」

 髙崎さんの意図する通り、本の中ではフランスが国の法律・制度としてバカンスを位置づけていく歴史的な経緯や、その効果に関するさまざまなデータが綴られている。さらに、医療、農業、出版など、さまざまな業種や業態で、一緒に働くメンバーに長期休暇を取得させようとする上司の「マネジメントの思想と実践」が本人たちのリアルなインタビューによって描かれる。

 もちろん、部下たちに長期休暇を取得させる手法は仕事内容や業務量によって異なるが、彼らに共通するのは「どうやったら部下たちに休みを取らせることができるか」ではなく、「部下たちが休むことを前提として、どうやって仕事を組み立てるか」という発想だ。そのために、製造業は一時的に生産量を減らし、病院では担当医が当番制で入れ替わり、公務員は公益サービスを縮小する。それで市民が多少の不利益を被ったとしても、「まあバカンス中だから仕方ないよね」と、社会全体がそれを受け入れている構図だ。

 「長期休暇を取得することが法律で定められていることも大きいですが、国民の大半が労働の対価として休暇を得ることに誇りを持っている。中には『仕事と仕事の間にバカンスがあるのではなく、バカンスのために日々働いている』といったように、人生の目的としている人もいる。新型コロナウイルスの流行期、バカンス期間の直前にフランス国民が一致団結して行動制限やマスク着用に従い、感染者数を抑制した事例からもその温度感が伝わります」


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