英フィナンシャル・タイムズ紙の7月4日付け社説‘After the flames, France needs a new social mission’は、パリ郊外で生じた警官による少年射殺事件を契機としてフランス全土に広がった大暴動の背景につき分析するとともに、オリンピックを前に包摂的で調和のとれた地域社会の構築を緊急の国家的な使命とすべしと論じている。要旨は次の通り。
フランスの暴動は、根深い社会的緊張と政治的偏向をあからさまにした。マクロン大統領とその政府は、これらの問題に対し包括的かつ持続的な対応を必要としている。そうしなければ、貧しく多様な民族が暮らす都市部は、爆発しやすい火薬庫であり続ける。
この危機へのマクロンの対応は一定の評価に値する。マクロンは鎮静化に努力し、事態を悪化させる可能性のある非常事態宣言の発令も行わず、その一方で膨大な警察力を動員して騒乱を封じ込めた。
6年間にわたるマクロンの権力へのアプローチは、世論を煽りがちであったが、今回は、右派、極右、極左の対立勢力が、この危機を自分たちの文化戦争のために悪用しようとしている。
いかなる不満も、無分別な暴力や暴徒を正当化することはできないが、コミュニティにおける不公平感と国家に見捨てられているという感覚が存在しており、政府はその原因に対処する必要がある。
黒人などマイノリティに対する警察の蛮行は、米国や英国でも同様に問題となっている。しかしフランスは、抗議行動に対する暴力的な対応、不十分な訓練、組織的な人種差別など、取り締まり上の問題を直視しようとしない。こうした姿勢は裏目に出ている。暴動で最も得をするのは極右だ。
また、マクロンとフランスの政治指導者たちは、都市郊外に蔓延する貧困、犯罪、人種差別、教育水準の低さに適切な関心を払い資金を割くことを怠ってきた。取り締まるだけではだめで、簡単な解決策はない。交通や住宅供給には数十億ドルが費やされたが、人的資本は軽視されてきた。成功する人々は出て行き、そして新たな移民が入り込み、分離状態が悪化する。
2017年の当選後、マクロンが指示した都市政策に関する報告書の作成は棚上げされ、昨年公約した新計画はまだ具体化していない。今これは緊急の課題だ。投資家は動揺しているであろうし、来年のパリ・オリンピックは都市の混乱に見舞われる可能性がある。フランスは包摂的で調和のとれた地域社会を構築する新たな国家的使命を必要とする。
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6月27日にパリ郊外のナンテールで北アフリカ系の少年を警官が射殺した事件に対する抗議活動が、SNSなどで煽られたことによりフランス国内各地における大規模な暴動に発展した。