暴動は7月に入り収束に向かったが、この問題をめぐり、極左と極右は完全に対立する立場をとり国内の分断を深めている。左派系は、フランス社会に既に根深く存在している人種差別の問題を改めてクローズアップするとともに警察を非難し、右派・極右派は、暴徒を「害虫」と呼んだ警察組合を支持して移民対策の強化、犯罪取り締まりや刑罰の強化を主張し、いずれもマクロン政権の対応を不十分として非難し、政治利用している。
フランスの人口の約1割は、旧植民地のサブサハラアフリカ系またはアルジェリア、モロッコの北アフリカ系といわれており、パリほかの大都市の郊外に集中して居住している。これらの移民に対しては教育、住居、就職などの面で厳然たる社会的な差別が存在しており、これが貧富の格差の拡大にもつながっている。
フランス政府は、自由、平等、博愛が国是であるにもかかわらず、この問題に正面から対応してこなかった。特に、警察当局は、抗議運動に対する対応において実力行使をしがちであり、また、通常の取り締まりにおいても、移民系の住民に対してより厳しく対応しているとの批判もある。移民居住区における治安の問題や犯罪発生率など、また頻発する抗議運動の暴徒化など、警察側にも言い分はある。しかし、オランド政権末に停止命令を拒否する車両に対する警官の銃の使用制限の緩和に関する法律が成立後、この種の射殺事件が増えているのは事実であり、その被害者の多くは黒人または北アフリカ系だとのことである。
このような悪循環により、警察当局と移民系住民の特に若年層との間の相互の不信感や不満は蓄積しており、マクロン政権は、問題の根源にある移民系住民の貧困や社会的疎外の問題を直視し、また警察当局と住民の間の信頼醸成が課題となる。いずれも容易なことではないが、差別をなくすための啓発、教育や社会サービス面での支援など、問題の根源への取り組みが重要であろう。
支持拡大する極右「国民連合」
問題は、左右両極の政治勢力がこの問題の政治利用を図ることである。極左政党「不服従のフランス」のメランション党首らは、差別の解消が秩序の維持に優先すると極端な主張を行い、暴動の拡大に伴い世論の支持を失い、逆にルペンらの極右政党「国民連合」が、支持を拡大している。
ルペンはかねてより移民の制限と共に、刑事手続き面では16歳以上を成人として裁くこと、有罪判決を受けた者は生活保護を受ける権利などを失うこと、有罪の場合の最低量刑を定めることなどの主張を行っており、また、予算上も大都市郊外の移民層に比べて農村部が軽視されていると批判し、政府与党との間でこれらの問題の政治的争点化を図っている。ルペンに対する世論調査の支持率はこの事件後上昇し40%を超えていると伝えられるが、これが一時的現象なのか、または極右勢力がさらに一歩前進したのかが注目される。