今回のテーマは、「バイデンのウクライナへのクラスター爆弾供与とフィンランド訪問の狙い」である。ウクライナへのクラスター爆弾供与を決定したジョー・バイデン米大統領は、「難しい決断であった」と述べた。なぜ、困難な決断であったのか。
また、バイデン大統領は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議終了後、今年4月にNATOに加盟したフィンランドを訪問した。その真の狙いはどこにあったのか。外交は本当に24年米大統領選挙の争点にならないのかーー。
「引き算」をしたバイデン
1つの爆弾から多数の小型爆弾が広範囲に飛び散るクラスター爆弾は、殺傷能力が高く、不発弾は民間人を危険にさらすと言われている。日本を含め100カ国以上が使用を禁止しているが、米国、ロシアおよびウクライナはクラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)を批准していない。
ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、ホワイトハウスでの定例記者会見で、ウクライナ軍は弾薬不足であり、クラスター爆弾は生産が追いつくまでの「繋ぎ」であると説明した。しかし、バイデン大統領がウクライナへのクラスター爆弾供与に踏み切った理由は、果たしてそれだけだろうか。
24年米大統領選挙に向けて選挙運動を開始した同大統領は、「引き算」をしたのではないだろうか。
来年秋に民主・共和両党の大統領候補によるテレビ討論会が開催される。通常であれば、3回のテレビ討論会のうち、1回は外交・安全保障問題がテーマになる。
となると、24年9月までにウクライナとロシアの停戦交渉が行われ、交渉が進展していないと、バイデン大統領はウクライナへの軍事支援継続に関して共和党大統領候補から集中攻撃を受け、守勢に回る公算が高い。逆に、停戦交渉で成果を収めれば、アピール材料になる。
現在、ウクライナ軍のロシアへの反転攻勢は思うように進んでいないとみられている。年内ないし年明けに停戦交渉を行い、テレビ討論会までに成果を得るには、このタイミングでクラスター爆弾を供与して、ウクライナ軍のレベルアップを図る必要があった。バイデン大統領は、大統領選挙を視野に入れて、「引き算」をしたとみてよい。
しかし、「人権のバイデン」に反するバイデン大統領の決断に対して、米国民は否定的な見方を示した。米クイニピアック大学(東部コネチカット州)が7月19日に発表した全国世論調査によれば、ウクライナへのクラスター爆弾供与について、米国民の40%が「支持」、50%が「不支持」と回答し、「支持」が「不支持」を10ポイント下回った。
「人権のバイデン」と「米大統領選挙の日程」を天秤にかけたバイデン大統領は、確かに「困難な決断を下した」のだろう。