慈善病院で聞くオゾンホールの深刻な影響
ホステルに預けたバッグの中に高血圧の常用薬があった。試しに薬局で聞いたが、医師の処方箋が必要と。薬剤師は「近くに診療所が数か所あるが事前予約がないと受け付けてもらえない。10キロ先に慈善団体が運営する病院があり24時間受け付けている」と示唆。
到着すると大きな総合病院だ。受付嬢がヒアリングしてパソコンで問診票に個人情報を入力。次に看護師が面談して血圧を測定して緊急性を判断。いわゆるトリアージだ。そして小一時間待って医師の診察。受付嬢も看護師も専門性が高いと感心したが担当医師は想像以上であった。
看護師に経緯を縷々説明していたので医師のパソコン画面には「バッグがホステルで行方不明になって日本で処方した○○ピジン5mgと同等の薬を求めている」から始まり「自転車でNZの南島を走りキャンプしている」まで詳細が映し出されている。
担当医師は順番に事実確認して血圧を測定。上145、下95はNZの基準では少々高いというレベルらしい。いずれにせよ薬を飲めば自転車旅行にはまったく問題ないと太鼓判。
次に放浪ジジイが半袖の自転車ユニフォームを着ているのを問題視。「NZは南極に一番近くオゾンホールのため世界で一番紫外線が強い。年齢的にも皮膚の抵抗力が弱くなるので長袖にして帽子も常に被ること」との指摘。
医師はさらに毎日の睡眠時間、食事の内容などを確認。NZでの自転車旅行中で何か気になる点はないか普段と変わったことはないか再三確認した。医師は単に血圧の処方箋を出すだけでなくNZで残り40日間自転車キャンプ旅を問題なくできるか総合診断したのだ。医師のお墨付きをもらって前途が明るく感じた。
後で処方箋の担当医師の欄を見ると名前の下に”General Practitioner”(一般開業医と訳されるがホームドクターの資格らしい)とあった。なるほど患者の状況を把握して総合的に診察するという本来の“かかりつけ医”のアプローチだ。日本のフツウの町医者とは相当に異なる“かかりつけ医”本来のあるべき姿だ。
ちなみにNZではメラノーマ(悪性黒色腫)は深刻であり白人の15人に1人が発症して年間4000人がメラノーマと診断され年間約300人が死亡している。年間交通事故死亡者よりも多いという。
急速に進む海岸の浸食
3月26日。アンバレー・ビーチのキャンプ場。キャンプ場から数十メートル先がビーチだ。海岸沿いに散歩道がある。散歩道の脇に50メートル毎くらいにベンチが置かれている。年々海岸が浸食されているらしくベンチの真下まで海岸線が迫っているところもある。
地元の老人によるとここ数年浸食が激しいという。散歩道の端に環境監視のNPOが設置した看板があった。設置された台の指定された位置にスマホを置いて海岸線の写真を撮ってデータを環境監視センターに送ってほしいと書かれていた。人々に海岸線の定点観測を依頼しているのだ。
3月はNZの北島で豪雨が続き海岸線沿いの10軒くらいの別荘が高波に洗われている様子がニュースで繰り返し流れていた。
新築の別荘地に迫る土石流
3月31日。昨日までの雨が上がりゴア・ビーチのキャンプ場を出発。ところがキャンプ場のゲートを出て驚いた。緊急車両や工事車両が道を塞いでおり何台もの重機が作業している。キャンプ場の裏山で何か所も崖崩れ発生して土石が道に溢れているのだ。
3日間断続的に雨が降っていたが豪雨ではない。それでも地盤が緩んでいたらしく昨晩から今朝にかけて土砂崩れが発生したという。崖下には道沿いに十数軒の新しい別荘が並んでいる。別荘の裏庭まで土砂で埋まり、なかには裏庭に面しているリビング・ダイニングが汚泥で埋まっている別荘もあった。
南島を南北に縦断する経済の大動脈国道1号線は全長1000キロ超だが3分の1くらいの区間は山腹を削って造られている。それゆえ落石注意、土砂崩れ注意の標識が頻繁にある。土砂崩れの復旧作業により片側一車線のみの交互通行や一時通行止めに再三遭遇した。
NZでは気候変動による異常気象が常態化しているのだ。
(了)