2024年12月22日(日)

古希バックパッカー海外放浪記

2023年7月2日

『2023.2.4~4.28 83日間 総費用75万円(航空券24万円含む)』

シェアハウスの大学院女子は老人ホームでアルバイト

ワビサビ・シェアハウスのバックヤードにお一人様テントを張って野営

 2月10日。クライストチャーチ近郊のサムナービーチ。氷雨を避けるべくビーチ沿いの一軒家で雨宿り。この古びた一軒家は9人の学生たちのシェアハウス。その1人が大学院で先住民の文化と言語を研究しているジュリア。

 ジュリアが「家主は家賃の督促はしつこいけど窓ガラスやドアの不具合にクレームしても言を左右して応じない吝嗇家なの」と嘆いた。放浪ジジイが「ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』に登場するスクルージ老人のようだね」と感想を述べると我が意を得たと大爆笑。そのやりとりを聞いていた日本大好き青年のディーンは「この家は隙間風や雨漏りなど日本のワビ・サビの精神を体現している。ワビサビ・シェアハウスと命名しよう」と応じた。

 ジュリアは学費の足しに近くの老人ホームで週2回パートタイムのバイトをしている。老人ホームで実際に老人の介護をしているのはフィリピンやインドネシアなど全員アジア系女子とのこと。

 放浪ジジイは2022年にフィリピンとバリ島を徘徊した。両国の若者の先進国への介護職出稼ぎについて当事者から少なからず話を聴いていたのでNZの老人介護がどうなっているのか俄然興味を持った。

 ジュリアによると介護の資格も経験もゼロのアジア女性たちの初年度の時給は凡そ22ドル(当時のレートで約1900円)でNZの法定最低賃金に近いと。資格・経験があれば時給28ドル(=約2400円)という。帰国後実母が入居している老人ホームのサブマネージャーに話したら日本の介護職員と比べて2倍以上も高いと驚いた。

勝ち組の楽園、港町のリタイアメント・ビレッジ

マリーナの奥の丘にならぶ白いコテージがリタイアメント・ビレッジ

 4月12日。ニュージーランド(NZ)南島北端の港町ピクトンは人口4千数百人。北島の首都ウェリントンと南島を結ぶフェリーボートが発着する。入り江のヨットやボートが係留されているマリーナに面した丘に瀟洒なコテージが並んでいる。
 
 マリーン・リゾートの別荘地かと思って冷やかしに管理事務所を訪問した。事務所のある建物は居住者の共有スペースになっており、事務所の隣のマリーナを見渡すサンルームは広々とした快適空間。

 お年寄りの女性たちがマージャン・ゲームに興じていた。麻雀牌には漢数字の下にアラビア数字が併記されており、英語版の点数表を見ながら上がりの役の点数を計算していた。彼女たちによるとリタイアメント・ビレッジなのだという。引退後を楽しむ人たちが暮らすコテージらしい。まもなくマネージャーの女性が現れてビレッジを案内してくれた。

大手老人施設管理会社が運営

 マネージャーによるとこの施設には41棟のコテージがある。入居の条件は70歳以上で自立して生活できる健康状態であること。非常に人気があり現在入居希望者のウェイティングリストには40組が待機している。NZでも退職年齢は65歳であるが退職してから申し込んでも間に合わない。

 入居希望者は一時金を支払い居住の権利を買い、週単位で管理費を支払う仕組み。改装中のコテージの内部を見学させてもらった。日本の3LDKのマンションよりもかなり広い。天井が高く天窓がありリビングダイニングとメインベッドルームは南向きで海に面しており床から天井まで全面ガラス。海の碧と空の蒼が溶け合う無限の開放空間。

 運営会社は自立型ビレッジや介護付きホームなど46施設を全国展開する大手。ここは経済面でも健康面でも勝ち組のシニアたちのパラダイスなのだろう。

お金に余裕のない年寄りには“それなりの施設”が

 女性マネージャーに介護が必要な老人はどのような施設で暮らしているのか尋ねたら、「すぐ近くの分譲別荘地の上のほうに政府が補助している介護付き老人ホームがある」と教えてくれた。高台へ向かう急斜面の道路を登りきると南に面した平屋の長い建物があった。築後30年くらいだろうか、建物全体が少し老朽化している。

 大きな出窓があるサンルームには7~8人くらいの老人が車椅子に座って外を眺めていた。なんとなく生気が乏しく認知機能が低下しているような雰囲気だ。

入居者の3分の1は自己負担ゼロで全額政府負担

 施設の内部も外観同様に古びた感じが漂っている。個室はベッド、テレビ、机、小さなテーブルが置かれ、広さは日本の平均的な有料介護付き老人ホームとほぼ同じだ。マネージャーを呼んでもらったら疲れた容貌の中年のインド系男性が現れ事務所で話を聴いた。

 30人が入居しており全員なんらかの介護・介助が必要という。施設の土地・建物は地元のオーナーが所有しており管理会社が運営している。マネージャー以下職員は管理会社と雇用契約を結んでいる。日本の一般的な有料介護付き老人ホームと同様の経営形態である。

 入居者は政府の規定に従い所有する資産と年金などの収入に応じて管理費用を負担する。不足分は政府補助金でカバーされる。一定レベル以下の資産・収入の入居者は個人負担ゼロで全額政府が補助金でカバーしている。現在入居者の3分の1は全額政府負担という。

 政府補助金を受け取るためにホーム運営管理者は詳細な収支報告を監査機関に定期的に報告する義務がある。書類作成は煩雑であり、しかも抜き打ち検査もあるので書類確認と監査機関対応で忙殺されているとマネージャー氏はぼやいた。


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