それでも日本とは雲泥の外国人介護職員の待遇
介護職員は入居者2人に対して1人を確保しており実務を担当しているのは全員外国人女性という。内訳はインド人が12人で残りがフィリピン人で全員20代という。ちなみに最低賃金は22ドルだが人手を安定的に確保するために上乗せして契約しているという。
ちなみに管理会社と彼女たち外国人労働者は双方が合意して契約を延長すれば原則として何年でも労働ビザは延長可能という。しかも老人ホームは慢性的に人手不足なので彼女たちが希望すれば無期限に就労可能だ。
日本では外国人女性介護職員に対しては一定の日本語能力資格が課され、賃金が半分以下の上、転職は禁止され、多額の借金を抱えて来日しても3年で帰国させられる。米国が現代の奴隷制度と批判するのも当然であろう。
「女工哀史」ではないアジア系女性たちの笑顔
放浪ジジイが見た限り若いアジア系女性が明るく笑顔で働いているのが印象的だった。特に仕事が終わり制服を着替えた数人が年頃の少女らしくお洒落な私服姿でお喋りしながら帰っていく様子になぜか安堵した。
遠く故郷を離れて老人介護という心身ともにハードな仕事にも関わらず楽しそうに振舞っている彼女たちに救われたような気がした。
先行き不安な日本の“老老介護”
筆者は学生時代の友人の話を思い出した。彼は訪問介護ステーションを経営しているが「約20人在籍している女性介護スタッフの平均年齢は70歳、最高齢は80歳だよ。介護の現場は老老介護そのものなんだよ」とこぼしていた。
年金だけでは暮らしていけない高齢女性が支える“日本の老人介護”は果たして持続可能なのか。
閑静な住宅街の高級老人ホーム
4月20日。クライストチャーチ市内のカンタベリー大学付近の閑静な住宅街。チャリで走っていたら瀟洒なリゾートホテルのような施設を見かけた。入り口には●●Retirement Villageとあった。車寄せを囲む庭には花が咲き乱れ施設のエントランスは吹き抜けになっておりホテルのようだ。
中に入るとレセプションの美形女性が用件を尋ねたので支配人に会いたい旨を告げるとあいにく外出していると。「看護師長がいるので施設に関する簡単な説明はできます」とのこと。いかにもキーウィ(ニュージーランド人の愛称)的な陽気な女性が出てきて両手を広げ歓迎の挨拶をする。
看護師の休憩所みたいな雰囲気のサンルームでゆったりとしたソファで看護師長含め三人の艶やかな看護師さんに囲まれてお茶とクッキーのティータイムとなった。
豪華高齢者介護付きホーム、スタッフ数は入居者数の2倍
この施設は大手高齢者施設運営会社が運営しており全国に36施設を展開しているという。クライストチャーチ市内だけでも6カ所も施設を展開している。
この施設の現在の入居者は118人、スタッフはフルタイムの職員が合計134人。内訳はマネージャー3人(昼、夕方、夜間で交替勤務)、看護婦11人、介護士60人、キッチン・清掃・ランドリー・庭師・設備メンテナンスという補助スタッフ60人。看護師と介護職員は交替勤務。
やはり入居者2人に介護職員1人という比率だ。ちなみに日本では法令上3人に1人以上らしいが。
さらに看護・介護以外の業務に専門スタッフを配置しているところが日本との大きな違いだろう。日本では介護職員が部屋の掃除・片付やシーツ交換、配膳や食器の後片付けなど本来の介護業務以外も担当していることが珍しくない。
NZでは介護職が介護に専念できる体制が明確なのだ。日本の伝統的職場風土では職務範囲・権限責任範囲が曖昧で臨機応変にチームワークで日常業務を遂行するが、NZなど欧米では職務規定で厳格に仕事の範囲が定められている。
究極の贅沢は自分の時間を生きること
施設の運営会社の基本理念は“自宅にいるように快適に”。例えば起床時間は各自自由。朝食は6時以降何時でもOK。ディナーもフレキシブルタイム。当然コストはかかるが、入居者が自分の生活パターンで暮らせることでストレスを減らすことを重要と考えている。
時間を管理して規則正しく生活させるという考え方もあろうが、好きな時に起きて好きな時に食べるというのが人間的な生き方ではないか。実母は「軍隊や刑務所じゃないんだからもう少し自由に暮らしたいよ。起床は7時、朝食は8時、入浴は週2回、なんでもかんでも規則じゃ息苦しいよ」とこぼしているが、費用が平均的なフツウの施設では仕方ない。