2024年7月16日(火)

日本の医療〝変革〟最前線

2023年8月17日

住民主導で意思表明手法を確立

 この4月、リビングウィルを独自に作成した住民団体が現れ、注目されている。医療団体が直接関わらない地域住民だけで制作するのは珍しい。無料で地域住民に配布し始めた。手掛けたのは「高島平第2層協議体」である。

 協議体とは、聞きなれない用語だが、実は介護保険制度に基づく活動団体である。改正介護保険法で15年から「地域支援事業」の中に位置付けられた「生活支援体制整備事業」の地域団体である。

 市区町村の保険者ごとに第1層協議体が設けられ、その地域内に複数作られるのが第2層協議体だ。「地域住民が日常的に交流を深め元気に暮らす」との狙いで、保険者の責務となった。

 高島平第2層協議体は、東京都板橋区内の18の第2層協議体のひとつ。大団地がある高島平地域や高島平駅北側の新河岸地域などが対象地区である。民生委員をはじめ町内会、自治会、地域包括支援センター、介護事業者、板橋区社会福祉協議会、それに高齢住民など14人で構成する。

 制作したリビングウィルは、A4版16頁の「高島平版エンディングノート」とセットで構成。エンディングノートは、自分の交友関係や利用中の介護事業所、医療機関名、葬儀の形式や埋葬の希望法などを書き込む。

 一方のリビングウィルは、延命処置と緩和ケアを「希望する」か「希望しない」の選択欄を設けた。希望する方を選ぶと、次に胃ろうや点滴、人工呼吸器、強心剤、人工透析など具体的な11の処置について、希望の有無にチェックを入れる。

高島平第2層協議体が作成したリビングウィルカードの表と裏。二つ折りにすると名刺の大きさになる

 二つ折りにすると名刺大になり、財布などに納めて携帯しやすい。もしも、外出先などで倒れて意思疎通ができなくなっても、医療関係者に自分の要望を伝えられる。

 実は、毎月開く同協議体の定例会で、一人暮らしの出席者が「急に倒れて話せない状態になっても、チューブだらけの延命処置は嫌です。でも、その気持ちをどうしたら伝えられるのか分からず、困っています」という悩みを訴えた。その解決策としてリビングウィル作りが始まった。

 同協議体では、5月初旬に高島平区民館で住民向けの説明会を開いた。地元の趣味サークルの活動者を中心に声掛けしたところ、150人近くが集まり関心の高さがうかがえた。その後、板橋区医師会病院や高島平中央総合病院など近隣の病院を訪ねて趣旨を説明し、カード持参者への対応を要請した。

高島平第2層協議体が5月9日に高島平区民館ホールで開いた説明会(筆者撮影)

欧米と異なる最期への選択

 リビングウィル作成で先行した中に京都府の宇治久世医師会(宇治市、城陽市,久御山町)がある。17年に冊子「わたしの想い(事前指示書)」を作り2万部を配布、住民説明会も開いた。

 「これまで在宅医として訪問時に10人ほど記入者に出会った。ガン末期などの方で『特別な処置をせず、自然に任せたい』という欄にチェックされている方が多い」と堀内房成医師会長は話す。

 高齢者施設の大手、SOMPOケアでは21年1月にリビングウィルを含めたエンディングノートの「夢結いのーと」を作成、入居者に渡し始めた。88歳の記入者もその一人。延命治療を望んでいたが、この4月にがんが見つかると、自宅で治療しない選択に変えた。入院するとコロナ禍のため家族と面会できなくなることもあるからだ。


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