ACPが公表された18年以降、主導的役割を担う医療関係者の間では研修やセミナーなどで盛んに取り上げ、議論が進んでいるように見えた。だが、今回の調査では、医師、看護師が共に2人に1人は「よく知らない」となった。驚きである。
かつて意識調査の質問項目にリビングウィルがあった時に、厚労省は「治る見込みがなく、死期が近い時には、延命医療を拒否することをあらかじめ書面に記しておき、本人の意思を直接確かめられない時はその書面に従って治療方針を決定する方法」とリビングウィルを定義している。日本尊厳死協会によるリビングウィルと同じ考え方で、「延命医療を拒否」と位置付けていた。
07年度の第4回目意識調査では、そのリビングウィルに「賛成する」は一般国民で83・7%、医師は93・0%にも達している。いずれもその前回、前々回より増えている。ACPの低い知名度とは雲泥の差である。
ACPにこだわる必要性は?
15年ほど前までは、リビングウィルにこだわり、国民の大多数が賛意を表明していたにも関わらず、その後、完全に引っ込めてしまった。ACPの導入が国際的流れと説明されるが、厚労省からはリビングウィルとの関係性、整合性の説明が聞かれない。
そして、何よりもACPそのものの知名度が低い。元気な状態の時に、医療や介護関係者を集めて会議を催すのはかなり難しい。要介護状態になっても親密な関係のケアマネジャーやかかりつけ医師がいないと関係者を集めるのはハードルが高い。
それでも厚労省は、個人が一人で決めるリビングウィルより、医療や介護の専門職が話しあいに加わるのでACPの方が有効、と言わんばかりだ。果たしてそうだろうか。
「要介護状態になってからACPを開くと、サービスを受けている医療や介護スタッフ、それに家族への遠慮が先立ち、自分の考えを表明し難い」「医師の権威と専門用語に圧倒されがち」という声が高齢者から聞かれる。
リビングウィルは、個人が将来の終末期の迎え方を熟慮して記入できる。その後、医療やケアを受ける段になってACPの場で問いかけるのが理に適うだろう。
本人の自己選択、自己決定が何よりも尊重されねばならない。厚労省も「ACPは本人の意思決定が基本」と記している。だが、現実のACPは「みんなで一緒に」という同調圧力に巻き込まれがちである。ACPの前に、しっかりリビングウィルをしたためておくべきだろう。