2024年11月26日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年8月29日

 バイデン政権とトランプ政権の政策の違いは、大体において内在する哲学というより実施における違いである。イデオロギーと政策における重大な変動をトランプの手柄とすることは奇怪であり忌まわしく思われるかも知れない。しかし、40年もの間の貿易・グローバリゼーション・中国についてのコンセンサスからの決定的な決別という重要な点において、トランプは米国の内外政策において永続的な革命をもたらしたのである。

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 この論説は、何故にバイデンはトランプの継承者というべきかを論じた良く書けた論説である。トランプ政権は貿易・グローバリゼーション・中国に関して米国の内外政策の革命を引き起こした。バイデン政権はこれらの内外政策を継承し、それを足場に更なる政策を積み上げた。トランプ政権とバイデン政権の政策に違いがあることは確かである。しかし、それは大体において実施の仕方の違いであり、政策に内在する哲学を共有している、と論じている。この論説の「歴史的」の定義(過去と過激な決別をなし、その決別の結果と前提は政敵によって受容され吸収されねばならない)に従えば、トランプ政権の革命は「歴史的」ということになる。この議論に異論はない。

 バイデンがトランプの継承者だとの議論にバイデン政権自身は承服できるはずもない。いわんや、米国の内外政策の重大な変動の手柄をトランプに帰することは論外であろう。しかし、中国の多面的な脅威について世界の認識を改めさせたトランプ政権の功績は率直に認めなければなるまい。その手法は乱暴で一貫性を欠いたが、オバマ政権の生ぬるい対応を一変させた。

保護主義による同盟国との軋轢

 他方、トランプ政権が製造業の再建と労働者の保護の名目で保護主義と米国優先の政策を採用し、バイデン政権がこの路線を踏襲して自由貿易の理念を放棄したことは、大きな問題である。大統領補佐官ジェイク・サリバンは、さる4月の演説で、バイデン政権は新たな現実に適合した新たな経済のルールを目指すとの趣旨を述べて、バイデン政権の政策の理論化を試みたが、欧州やアジアの有力国が説得されているようには思われない。

 2024年の大統領選挙で誰が選ばれようと、トランプの遺産は継承される様相である。トランプ政権で通商代表を務めたライトハイザーは日経新聞に、バイデン政権は「トランプ政権の多く(の政策)を維持した。以前のやり方に戻らなかったことを評価したい」と述べたが、トランプが復帰すれば、更に高水準の関税を課すと述べている。共和党のデサンティス・フロリダ州知事は、当選すれば、中国から最恵国待遇を剥奪したいと述べている。WTOとの関係をどうするつもりなのか分からないが、これはトランプが既に明らかにしている立場でもある。

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