2020年大統領選の投票結果を受け入れ、米国民主主義最大の危機を救ったのは、マイク・ペンス副大統領(当時)の宗教的信念に基づく不屈の正義感と勇気ある行動だった。もし、トランプ大統領の要求通り、上院議長の立場で米議会での「バイデン当選」最終承認を先送りしていた場合、米国政治史上前例のない大混乱につながる危険があった。
トランプとペンスの不動の関係が決裂した日
16年大統領選挙を迎え、トランプ候補の副大統領候補に指名されたペンスインディアナ州知事(当時)は、共和党きっての強硬な保守イデオロギー論客として知られ、選挙期間中も、トランプ候補と二人三脚で「米国第一主義」スローガンを各州遊説先でアピールし、民主党からの政権奪回に大きく貢献した。
17年1月、トランプ政権発足後、4年間の任期を通じ、大統領への絶対忠誠を誓い、確固たる信念のもとに大統領の立場と政策弁護に奔走した。敬虔で熱心なキリスト教徒として、同性愛結婚、妊娠中絶、中南米からの移民増、市民の銃砲所持規制などに一貫して反対姿勢を貫いてきたことでも知られる。
トランプ大統領が20年大統領選に再選めざし出馬表明した際に、ペンス氏を再び副大統領候補に指名したのも、不動の忠誠度と思想的共通性を確信したからにほかならない。
しかし、二人の信頼関係は、同年11月3日の大統領選挙開票直後から決定的な決裂を迎えることになった。
全米各州における得票数の集計作業が終わり、ジョー・バイデン民主党候補の当選が確定したにもかかわらず、根拠のない「選挙不正」を理由に結果を頑強に否認し続けるトランプ氏に対し、ペンス氏は「民主主義のルールに従い、敗北を認めるべきだ」と主張してきたからだった。
この20年大統領選投票結果をめぐる当時の正副大統領の間の緊迫した確執の模様は、さる23年8月1日、ワシントンの連邦大陪審によるトランプ氏起訴状(全文45ページ)の中で初めて詳細が明らかにされた。