2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年8月1日

 英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙コラムニストのエドワード・ルースが、7月12日付け論説‘The great Ron DeSantis campaign train wreck’で、フロリダ州知事のロン・デサンティスが大統領選挙の共和党指名争いで急速に失速しているのは、トランプとその支持層はトランプ信奉を軸とする一種のカルトであるとの認識を欠いていることがその理由だと論じている。要旨は次の通り。

共和党指名候補のデサンティス氏(写真:AP/アフロ)

 2024年の大統領選挙の共和党指名候補の本命、あるいはそれに近い位置にいたデサンティスが、何年も見たことがない勢いで失速していることは、米国の保守主義の思考傾向を雄弁に物語っている。選挙運動を始めた当初、デサンティスはあらゆる面で優位に立っていた。資金は潤沢で、知名度もあり、強力な支援者がいた。トランプに代わり得る唯一の共和党候補だという感じもあった。ところが、彼は奇妙にも失敗している。

 理屈の上では、デサンティスの立候補の根拠は強力だった。共和党はトランプ抜きのトランプ主義を好むだろう。彼となら、トランプの人格上の欠陥に邪魔されずに「ウォーク(woke、編集部注:保守派が「偏狭な社会正義に目覚めた」という意味でリベラル派をからかう言葉)」との戦いを存分に仕掛けることができる。デサンティスは、起訴され将来刑務所送りとならないトランプだった。トランプからドラマの要素を除いた存在だった。彼なら、大卒者でも弁解せずに投票できる種類のトランプ主義を提供してくれる。

 蓋を開けてみると、この理屈には深刻な欠陥があった。MAGA(「米国を再び偉大に」の頭文字)を信奉する有権者にとって、トランプ・ドラマはどれほど沢山あっても足りないものだった。自分は勝てるタイプのトランプだと名乗るのはあまり意味がない。デサンティスの仮説がMAGAの欲するものを致命的に読み違えていることは今や明らかである。

 巻き返すにはデサンティスは二つのことが必要である。一つは幸運である。もう一つは、自分が相手にしているのはカルト(狂信的教団)だという認識である。今や共和党は民主政治の常識的なルールに逆らう個人に対するカルトに支配されている。

 このカルトを解体するには是が非でもドラゴンを倒さなければならない。その点で、デサンティスは全く勘違いしている。デサンティスはマッチョな男――正しく怖いものなしのスーパーヒーロー――の振りをしているが、ドラゴンを避けて通る本能のために、それが嘘だとばれている。重要なのはドラゴンの右を行くことではない。ドラゴンの心臓に槍を突き刺すことだ。

 ニュージャージー州知事だったクリス・クリスティーはその手法を試しているが、今のところあまり運に恵まれていない。しかし、トランプが共和党の討論会に応ずれば、クリスティーにもチャンスが巡って来る。クリスティーは、他のライバル候補、とりわけデサンティスが気づいていないことを理解している。トランプの改良版の振りをしてもトランプは倒せない。トランプには文字通り改善の余地がない。

*   *   *

 共和党の指名争いにおける支持率の平均値は、政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によれば、トランプ:53.7、デサンティス:20.9(その他、ペンス:5.7、ヘイリー:3.6、クリスティー:2.4)、おまけに4月頃からトランプの支持率は上昇傾向、デサンティスは下降傾向となっている。デサンティスを共和党の指名獲得の圏外とするには早過ぎるとの意見はあるが、彼の支持率が伸びないのはどうしたことかと問う雰囲気が強まりつつあるようである。


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